あとがき

 現在の新潟大学医学部保健学科に在職して11年になる。これまでの1カ所の在籍期間としては一番長い。じっくりとひとつの場所で継続的に仕事をする人もいるだろう。むしろそういう人の方が多いかもしれないが,どうも私はそうではないらしい。還暦も超えたし,後の人生はまだ活動力が残っているうちにもう一度病院臨床の現場に戻り,今までの経験を生かして地域精神医療に取り組みたいと最近は考えている。そういう時期にこれまでの著作をまとめる機会を得て,本書を上梓することができたのは望外の幸せである。そして,何にもまして,臨床場面,地域,あるいは全国で出会ってきた多くの当事者,家族の方たちに全てを教えてもらったといっても過言ではない。本書はそのお礼の気持ちの現れでもある。
 考えてみると,私は仕事上では大変幸運だったと思う。ひとつは「精神衛生法」から「精神保健法」に変わる前後から,今に至るまでの精神医療を巡る地殻変動といってもよい変化をつぶさに体験できたことである。ひとつの挑戦であった精神科病院の開放処遇は今では当たり前のことになり,今度は外来中心へと移行しつつある。法律も含めたハード面の変化とともに,ソフト面でも精神科医として出発した当時,ほとんど試行的でしかなかった,家族療法,家族心理教育,SSTなど心理社会的治療はほぼ当たり前のようになってきている。そのことに自分がやってきたことがいくばくかの手助けになっていると思えるのもまた幸せなことである。そして今後の課題である,当事者中心(ユーザーオリエンテッド),アウトリーチ中心へのさまざまな場面への関与ができているのも幸いである。
 そのときどきでよい現場に恵まれ,かつ好きなことをかなり自由にやらせてもらえた。それもまた幸運のひとつである。そういうなかで,職場だけではなく,新潟県内はもとより日本各地の,また精神科医にとどまらない共通の感覚で仕事の話ができる,年齢層も幅広い,多職種の専門家,家族・当事者の知り合いがいて,またそのネットワークができているのは現在の私の大きな財産である。そのなかでも「日本家族研究・家族療法学会」「日本心理教育・家族教室ネットワーク」「日本SST普及協会」「日本精神障害者リハビリテーション学会」「地域精神保健福祉機構COMHBO」に参集している主メンバー(かなり共通しているが),会員,事務局の方々には特に感謝する。
 現職の新潟大学医学部保健学科の方々はもちろんだが,新潟県の医療,保健,福祉関係者には,本当に大勢の方々に一方ならぬお世話になった。なかでも地域精神保健の領域での国立療養所犀潟病院(現・国立病院機構さいがた病院)時代からの酒井昭平氏との交流,元・守門村保健師五十嵐松代氏,小千谷市,五泉市,旧東頸城郡松之山町,松代町の保健師さんたちの実践に学ぶところが多かった。医療関係者では枚挙にいとまがないが,なかでも柏崎厚生病院長松田ひろし氏,恵生会南浜病院副院長川島義章氏には,長年公私ともにお世話になっており,今までのご厚誼を感謝したい。それに加えて千葉大学の卒業時同期生の現・静岡県立病院機構静岡県こころの医療センター院長平田豊明氏,深谷メンタルクリニック院長島上実氏には,仕事上だけでなく,友人として個人的にも多くのサポートをもらっている。
 本書が出版にまでこぎ着けられたのは金剛出版編集部の北川晶子氏,高島徹也氏のなみなみならぬ努力の結果である。特に北川氏は遅筆の私にめげることなく,本当にデッドラインぎりぎりまで編集,校正に当たってくれた。改めて感謝したい。
 また,家族療法,家族心理教育関係は金剛出版からの発行によるものが多いが,それらの著作の大部分は,以前金剛出版の編集部におられた石井みゆき氏のおかげである。私が「家族療法研究」編集委員長を2期務めた間も,編集者としておつきあいいただいた。もともと単著については石井氏が構想されていたものでもあり,ここに心からのお礼をいいたい。
 最後に,好きな仕事を自由にさせてくれ,自分も多忙な仕事がありながら家庭との両立に甚大な努力を払ってくれている妻清恵の協力に感謝する。

2012年2月 著者