あとがき

 書店では「やる気」に関連したビジネス書や教育誌の特集などをよく目にします。それだけ「やる気」というテーマは人々の関心事なのだといえるでしょう。ところが、意外にも「やる気」に関する心理学の考え方(モティベーション理論)をきちんと紹介する一般向けの本はほとんど出版されていません。本書は、そのような状況を踏まえ、心理学者が一般の読者に対してモティベーション心理学をできるだけわかりやすく紹介するというコンセプトで編集されました。
 「理論」というと「難しい」というイメージをまず持つかもしれません。しかし、そもそも理論とはわれわれの理解をサポートする「知の枠組み」です。心理学の理論を通して、われわれは心理現象に関する認識を新たにしたり、さらに深めていったりすることができるのです。
 そこで本書では、近年の代表的な12の理論を精選して紹介することにしました。本書が、読者の皆さんの「やる気」に対する複眼的な見方を可能にすると同時に、各人の問題関心や好奇心に応えることになれば編者としてこれほどうれしいことはありません。
 なお、二〇一〇年八月に早稲田大学で行われた日本教育心理学会第五二回総会での研究委員会企画シンポジウム「動機づけの教育心理学―その成果と課題」が、本書刊行の契機となったという点を最後に記しておきたいと思います。編者はこのシンポジウムの企画者だったのですが、シンポジウム終了直後に参加者のお一人だった金剛出版編集部の藤井裕二さんに声をかけていただき、ぜひこのシンポジウムの内容を中心とした本を刊行しようという話へと発展していきました。シンポジウムに御登壇いただいた櫻井茂男先生、伊藤忠弘先生、浅川希洋志先生、中谷素之先生、金井壽宏先生(ご執筆順)はもちろん、モティベーション心理学の各分野でご活躍されている他の先生方にもご参加いただくことによって、このユニークな本が完成した次第です。この場を借りて、ご執筆いただいた先生方、そして本書刊行にあたって何から何までお世話になった藤井裕二さんに心よりお礼を申し上げたいと思います。

二〇一二年四月
鹿毛雅治