『心理臨床スーパーヴィジョン−学派を超えた統合モデル

平木典子著
A5判/230p/定価(本体3,800円+税)/2012年9月刊

評者 金沢吉展(明治学院大学)


 一つの分野には,その分野の始まりを記す重要な著書・論文や,その分野の転換点となるような著書・論文がある。本書は,日本における心理臨床のスーパーヴィジョンに関して,実質的にそのスタートとなる重要な著書と言えよう。
 これまで,スーパーヴィジョンに関する海外の翻訳や,自身の経験・実践を著した著書は発行されてきたが,本書はそれらの著作とは趣を異にしている。平木氏は,本書冒頭の第1 章において,日本におけるスーパーヴィジョンの現状に対して鋭い問題提起を行い,本書のねらいを明確に提示している。著者はそこで,日本においては,スーパーヴァイザーとしての訓練の乏しい人たちがスーパーヴィジョンを行っており,スーパーヴィジョンと心理療法との明確な違いに目を向けず,自身の心理療法理論をスーパーヴィジョンの場でも用いていることが多いこと,しかも,自身の心理療法理論に拘泥してしまい,訓練生が基本的な臨床力を身につけることをおろそかにしていると明確に指摘している。そして,本書を,特に大学院生を対象としたスーパーヴィジョンのモデル構築に向けた試みとして提示している。著者のこうした指摘には大いに賛同するものである。
 続いて第2 章では,スーパーヴィジョンの定義を示した上で,これまでに論じられてきた代表的なモデルのうち,弁別モデル,発達モデル,システム・モデルの3 つのモデルを紹介している。これら3 モデルのうち,著者は特にシステム・モデルを自身の枠組みとして用いていることから,第3 章においてはこのモデルを詳しく紹介し,さらに第5 章において,実際のスーパーヴィジョンのやりとりについて,このモデルを用いて解説を行っている。モデルの理論的紹介にとどまらず,このように実際の場面に適用して論じることによって,読者にとって理解しやすい内容となっている。
 第4 章・第5 章では,スーパーヴィジョンにおいて用いられる形式と方法が示されている。日本においては,おそらく,スーパーヴァイジーが口頭で面接内容を報告し,それについて個人スーパーヴィジョンを行う,という方法が一般的であろう。しかし,それ以外にもさまざまな方法があることが示されており,スーパーヴィジョンを行う側にとっては大いに参考になろう。
 スーパーヴィジョンの実際的な側面のみならず,倫理やスーパーヴァイジーの発達段階も論じられていることは,本書をより充実したものにしている。しかしながら,本書のねらいとするところを具現するためには,質の高いスーパーヴァイザー養成が不可欠である。著者は最終章において,日本におけるスーパーヴァイザーの教育について警鐘を鳴らしているが,十分頷けるものである。
 本書は,日本の心理臨床スーパーヴィジョンという分野を築く重要な著書であり,本書において提示された課題を一つ一つ克服していくことが,日本の臨床心理学という分野全体に求められていると痛感する。