『心理臨床スーパーヴィジョン−学派を超えた統合モデル

平木典子著
A5判/230p/定価(本体3,800円+税)/2012年9月刊

評者 村上雅彦(広島ファミリールーム)


 本書は,『精神療法』誌第35巻第1号(2009年2月発刊)から第37巻第2号(2011年4月発刊)まで連載されていたものに加筆・修正・編集されたものである。私は,2008年6月に中村会長より教育研修委員長を拝命し,スーパーヴァイザー制度の創設に取り組むことになり,3年の準備を経て,2011年に制度をスタートすることができたが,そのまさに,検討しているときに連載が掲載されていた(制度の検討は,2002 年から開始されており,実は8年の歳月がかかっている。詳しい経緯は,第29巻第3号の児島氏の基調講演をご参照頂きたい)。時々読ませていただいていたが,特に,制度を考える当初の段階におけるスーパーヴィジョンとは何かを考える上でとても役に立った。
 スーパーヴィジョンは,ここ10年特にクローズアップされているように思う。それは1996年に臨床心理士の資格認定が始まったことも大きい要因と思う。資格認定に伴い,養成のための大学院が整備され,多くの臨床心理士を生み出す体制が作られていった。そのため,急激に初学者が増え,現在は初学者に比して指導者が少ない末広がりのピラミッド状態にある。私は,10年以上前は,家族療法を学びたい方にスーパーヴィジョンを行う機会があったが,その場合は家族療法の考え方で行えばよかった。しかし,10年前くらいから,大学院生もしくは卒後間もない初学者にスーパーヴィジョンを依頼されるようになった。院生の段階では,まだどの治療法を選択するかが決まっていない方が多いので,特定の心理療法のモデルによってスーパーヴィジョンを行うわけにはいかない。そのときに考えたことは,どの立場にも立たないが,しかし,臨床を行う上で必要なことを身に着けてもらわねばならない,とすると,どこが共通する基盤のところで,どこからがそれぞれの方法のところかを見極めていくことが必要となり,その点で大変苦心した。
 本書は,この私の悩みを解消してくれる本となった。著者は,『はじめに』で現在の日本のスーパーヴィジョンの問題点を指摘し,課題としてスーパーヴィジョンのモデル,それも,特定の理論に基づくものではなく,汎用性のあるモデルを作らなければならないことを提唱している。本書は,その立場からスーパーヴィジョンについて書かれている本である。これまで,精神分析の立場で書かれている本は目にしてきている。それらも,汎用性のあるものとの考え方をいわれているが,モデルというところまで言及している本を読んだことがない。上述したように私が悩んでいたのは,結局そのモデルがないために試行錯誤になっていたのだと思う。読んでみればわかると思うが,非常にすっきりとまとまりがよく頭に入ってくる。全体構成が明確なので,その中身についての位置づけも容易にできるのだろう。
 特徴的なところをピックアップすると,第3章は,1960年からその汎用性のある基礎訓練が進められていた北米で構築されていった統合的モデルであるSAS(The Systems Approach to Supervision)と呼ばれているモデルについて説明してある。偉そうな言い方で恐縮であるが,これがとてもよくできていると思われる。スーパーヴァイザーの行うことは,とても幅が広い。なぜなら,スーパーヴァイジーのレベルとニーズに合わせて行われる必要があるからである。スーパーヴァイジーが今どのレベルにあるのか,知識を教える段階なのか,自身で.む段階なのか,知識技術獲得にもいくつもの段階があるし,個々人の得手不得手もあるし,考慮すべきことはたくさんある。つまり,スーパーヴァイジーのいわば仮説(見立て)というものが必要になる。その際に,このモデルはとてもわかりやすい。またスーパーヴァイザー訓練にも有用と思う。第5章では,その実際の使用例も掲載されている。第6章では,倫理について書かれているが,これまであまり書かれていないところで,とても重要である。第7章では,8段階発達モデルが紹介されている。とても興味深く読ませてもらった。私はすでに臨床経験が30年になっているが,この表を読んで自分の発達段階を振り返り,納得したり再発見したりだった。
 本書は,汎用性のあるモデルを示すことをメインテーマとしているが,著者のスーパーヴィジョンについての問題意識から始まり,スーパーヴィジョンとは何か,どのような形式と方法があるかも詳しく説明がされていて,きちんと基礎から積み上げるようにしてスーパーヴィジョンについて教えてくれるし,心得ておくべきことが網羅されているまさに指南書である。なにより,この立場で書かれている本を私は知らない。家族療法を実践している方は,これこそと思うかもしれない。スーパーヴァイズを受けようと思っている方もこの本を読むことで自分が今何を学ばねばならないかを考えることができるだろう。もしかしたら,どのスーパーヴァイザーにスーパーヴィジョンを受けるのか判断することにも役立つかもしれない。