日本語版への序文


 Cognitive Behavioral Therapy for Adult ADHD : An integrative Psychosocial and Medical Approach の原版が出版されて以来2,3年になりますが,ここのところ成人期のADHDに対する心理社会的治療の研究および臨床への適用に対する関心が高まっています。認知行動療法(CBT)的なアプローチを主体とする心理社会的治療が成人期のADHDへの効果的な付加的治療であることを示す研究結果のエビデンスが今もなお蓄積され続けています。さらには,これまでの成人期のADHDへの治療プログラムではCBT的治療アプローチの面で若干の相違はあるものの,提案されている介入法や対処方略には共通点が多く見られます。
 また,ここ2,3年の変化として,成人期のADHDの症状が日常生活に影響することが判明し,その詳細の解明が進んでいます。端的にいうと,ADHDの症状は成人の生活のすべての面に影響を与えます。薬物療法はADHDの中核症状の改善にとても効果的ですが,症状の軽減が必ずしも日常生活上の機能とウェルビーイングの改善に反映されるとは限らないのです。
 成人期のADHDへのCBTはこの日常生活上の機能とウェルビーイングの側面で最も効果的なのです。本書で論じた方略は日常生活上の成人の機能のさまざまな面をターゲットにしており,ADHDをもつ成人が効果的なコーピング方略を持続的に行えるように援助することに焦点を当てています。これらの対処方略は時間管理,系統立て,プランニング,問題解決,衝動制御,動機づけ,感情コントロールなどの面へのADHDによる実行機能への悪影響を抑えることを目指しています。ADHDをもつ成人がこれらのスキルを実行に移すのを促す介入は基本的に行動面のものです。しかし,認知面での介入も欠かせない要素であり,行動上の対処スキルの遂行を阻害する無力感,悲観的思考,感情コントロールの問題を同定することでADHDをもつ成人がADHDの生活上への影響を理解し,変化へのプランを練り上げ,そのプランを実行に移すのを援助することができます。このような認知的な介入は,治療者と患者が協働的な治療同盟を確立するのに一役買うことでしょう。ひいては,度重なる治療上の後退に対し我慢強く接し,建設的な変化を成し遂げるというゴールに再焦点化することにもつながるでしょう。
 本書の翻訳によって,ADHDをもつ成人に関わっている日本の臨床家に本書が広く読まれるようになることを期待します。また本書を読んだADHDをもつ当事者がADHDの症状が日常生活に与える影響の理解を深め,ウェルビーイングの向上につながる治療を求められるような有益な情報を見出せることを望みます。最後になりますが本書が専門家としての仲間であり尊敬すべきADHDの研究者である武田俊信先生の監修により翻訳されたことは光栄の至りです。われわれは彼の尽力に感謝を捧げます。

J. Russell Ramsay, Ph.D.
Philadelphia, PA
April, 2011