『児童生活臨床と社会的養護−児童自立支援施設で生活するということ

田中康雄編著
四六判/280p/定価(本体2,800円+税)/2012年9月刊

評者 増沢 高(子どもの虹情報研修センター)


 この書は,社会的養護を担う児童福祉施設の一つである児童自立支援施設について,施設に深くかかわる実践家(臨床家)が,施設での臨床のあり方を追及した論説集である。児童自立支援施設は,1998 年まで教護院と呼ばれ,思春期の主に非行を主訴とする子ども達が入所する施設である。
 児童自立支援施設というと次の二つのイメージが浮かぶのではないだろうか。一つはその長い歴史の中で,留岡幸助をはじめとした先人たちが崇高な理念を築きあげ,展開してきた施設というイメージで,もう一つは,作業課題や規則が重視され,時に厳しく職員が子どもを指導,統制するというイメージである。両者が統合され施設のイメージが成立している人もいれば,二つのイメージが矛盾して併存している人もいよう。児童自立支援施設は全国に50 カ所ほどあるが,私自身も児童自立支援施設の実情や事例の報告を聞くたびに,両イメージのどちらかが前面に現れ,二つはなかなかまとまらずにいる。時に,理念の崇高さと権威的で一方的とも見える指導のあり方にギャップを感じたこともあった。
 本書を読むにあたってやはりこの二つのイメージが頭に浮かんできた。しかし読み進めるほどに,これらのイメージは小さくなり,はるか高い次元のテーマへと導かれていく思いがした。それは施設の臨床を「生活臨床」とし,そのあるべき姿の本質的検討である。この展開自体が児童自立支援施設の今日的進歩の証しであり,本書の執筆者を含め施設内外で児童自立支援施設に関わる実践家(臨床家)のひたむきな活動と課題追求の姿勢の賜物といえよう。
 援助実践は援助する側と子どもとの相互的過程である。常に子どもの実情に即して援助のあり方を振り返り,生活の質と対応の質を高めていく大切さを複数の論者が述べている。一方通行の処遇は,どこかで子どもとの不調やトラブルを生じさせてしまう。こうした事態の頻発が援助者の不安を呼び,枠組みのさらなる強化へと進む危険があることを相沢仁氏は指摘する。
 援助の中心軸は,援助者の側にある理念でもこうするべきという指導方法でもない。軸は常に対象となる子どもの側にある。個々の子どもを適切に理解することではじめて具体的な援助のあり方がみえてくる。いわゆるアセスメントであるが,村瀬嘉代子氏は生活と連動したアセスメントの重要性を指摘し,その視点を提示している。
 理念は実践から生まれる。ゆえに実践を通してのみ理念の持つ真の意味への到達を可能にし,時に既存の理念理解に対する修正あるいは理念自体の修正をも求めることになる。児童自立支援施設の重要な理念である「With の精神」の核となる「ともにあることの」の意味について,田中康雄氏は深く再検討を行っている。
 本書の中で検討されていることは,児童自立支援施設にとどまらず,児童養護施設や情緒障害児短期治療施設等,他の児童福祉施設にもまったく当てはまるものである。「生活臨床」として真っ向から検討した今までにない必読の書と思う。