書評

『自殺リスクの理解と対応―死にたい気持ちにどう向き合うか』感想
ショーン・C・シア著 松本俊彦監訳 鈴木、近藤、富田訳 金剛出版
2012年11月19日
GCC基礎講座修了
酒井 正昭

◎本の仕組みとして良かった点
@専門書なので丁寧な索引(私が数えたら241項目)があって助かった。これから座右に置いて使うのに便利。

A訳注があるのがありがたかった。特にP:146の「正常化・・・」は読んでいて判らなかった。訳注のお陰で先へ進めた。

B事例を太字の活字で表示してあるのはとても読みやすかった。

◎読んで感じたこと
●第5章、6章、7章のカウンセリング事例を中心にして

@ 日本と比べてアメリカの臨床現場で、一人のクライアントを治療する側の、層の厚さの違いを感じる。セラピスト(カウンセラー)だけがクライアントの自殺念慮を背負うのでなく、精神科医、看護士、救急外来担当医、地域医療担当医など、多くの人がかかわり、クライアントについての情報交換が行われている。

A こうして治療の現場で明らかになった、クライアントの自殺への願望、未遂行為などについて、クライアントの了承を取り、家族や周囲の親しい人へ確認作業を行い、自殺願望の程度を診断し措置を決めて行く。多くの人が作業に参加し、一人の自殺企図がはっきりし、自殺への想いを診断していくシステムは素晴らしい。

B アメリカでは一般的な心理療法として認知行動療法を主に使っているようだ。    そして自殺イベントについては、CASEアプローチの過程で、行動イベントの同定など6つの技法を用いる。
カウンセラーの質問の出し方がとても大切だと思った。p116〜117のジミーの例で、オープンとクローズドエンドについての解説は勉強になった。また事例では具体的な事柄の否定でクローズドエンドの聞き方を解説している。

C Bの言い方で纏めれば、喪失の苦しみに出会っている方へ、基礎講座で学びさらにこれから学んでいくグリーフ療法でカウンセリングの手を差し伸べ、加えてこの書から学んだ自殺イベントへの対応を知っていれば、心強い。

D カウンセラーをはじめ対人支援業務を行っている皆さんが、この書を手に取るといいと思う。相談を受ける側が自殺についてきちんと知っていることは、相談業務を安定したものにしてく上でも必要だと思う。

●第T部の有名人の自殺の事例紹介のなかで、ブルーノ・ベッテルハイムの事例は読みながら身を乗り出した。大切な人(妻)の喪失だけでなく、老いは身体機能、仕事、健康など、多くの喪失が日常忍び寄ってくる。心理学者ですら綿密な死に方を計画し、実行してしまう程の喪失を積み重ねるのが、"老い"なのかと思う。
喪失の中で、いかに死ぬかを考えるのではなく、いかに老いながら生きるかを考えることは不可能だったのだろうか・・・。

◎残念な箇所
素晴らしい本だけに残念な気がしています。
読んでいて次の箇所不明でした。若しかしたら誤植かもしれない。間違っていたら失礼

1) p97下から3行目「おけて」
2) p134 8行目「気づけよう」
3) p251最終行「感心」
尚p243の13行目「思路弛緩」は専門用語?