はじめに

T 発達障害とは
 発達障害者支援法における発達障害者とは,「LD(学習障害),ADHD(注意欠陥多動性障害),自閉症およびアスペルガー症候群等の広汎性発達障害(PDD)」と示されています。
 LDとはLearning Disabilitiesの略語で,日本語では学習障害と訳されているように,知的には問題ないが文章や文字を読むこと,書くこと,あるいは計算することの一部,あるいは双方に困難性を生じている場合に用いられています。具体的には高学年になっても文字がずれて見えたり,鏡文字を書いてしまったり,繰り上がりの計算ができないといった状況を示します。そのため,学習の基本となる国語と算数ができないため,関連する理科や社会などにも影響を及ぼす場合があります。2002年の文科省の調査では,全国の小・中学校に約6.3%の発達障害児童・生徒がいる中でこのLD児が4.5%ともっと大きな数値を示しています。
 ADHDとは,Attention Deficit Hyperactivity Disorderの略語で日本語では注意欠陥多動性障害と示されています。大きな特徴は集中力がなく常に注意が散漫になってしまうこと,多動で教室内をうろつきまわる,そして衝動的な行動をしてしまうといった点が特徴であり,不注意型ADHD,多動・衝動型ADHD,これらが合わさった混合型ADHDと分類する人もいます。この中で仕事で問題となるのは,注意散漫なため仕事に集中できない場合が多いようです。
 広汎性発達障害とは英語でPervasive Developmental Disorderとなるため,その頭文字をとってPDDと示されることがあり,自閉症やアスペルガー症候群を包含した総称です。しかしながら,これらは同じ障害であるため近年ASD(Autistic Spectrum Disorder),すなわち自閉症スペクトラム障害と示されることが増えてきました。このASDの特徴は社会性,コミュニケーション,そして想像力の障害だと言われています。そのため,仕事そのものよりも職場の人間関係でトラブルが生じることがあると言われています。

U 発達障害者の就労上の課題
 発達障害といっても,先に述べたようにLD,ADHD,自閉症スペクトラムの特徴によって就労上の課題は異なります。LDの人でディスレクシア(読字障害)がある場合は文書が読めないために重要な連絡事項が理解できず無視してしまうことがあります。書くことが不得手な場合は,メモを取ることができない,報告書をまとめることができないなどの問題が生じます。そして数字や計算が苦手な場合は,測量ができない,単位が理解できないために誤った数字データを記入してしまうことがあります。
 ADHDの人は注意力が散漫なため,指示されたことが頭に入らずミスをしがちです。また,やらなければならない仕事を忘れてしまい仕事に手をつけないままになってしまうことがあります。
 自閉症スペクトラムの人たちは,コミュニケーションをうまくとることができないため,上司や同僚の人が言ったことが理解できない,また逆に相手にうまく伝えることができないということが生じます。このコミュニケーションの問題は,相手の感情を理解できないため,好ましくない言語表現を表し,相手を不快な思いにさせてしまうこともあります。
 さらに,ミスや失敗をしてもその理由をうまく伝えられないために,不良品量産してしまう。自分しかわからない独特のやり方で仕事をしてしまうといったことも見受けられます。そして何より,場の空気が読めない人たちが多いため,職場の人間関係に支障を来してしまうことが多々見受けられます。
 表1は発達障害の人たちが離職した要因ですが,仕事そのものの課題もありますが,対人関係における問題が多いことがわかります。

V 発達障害者の就労支援制度
 「障害者の雇用と促進等に関する法律」により,発達障害のある人に対する就労支援も充実してきました。よく使われている支援としては3カ月間といった期限が定められた「トライアル雇用」があります。トライアル雇用期間中には,地域障害者職業センターのジョブコーチによる支援を受けることができます。
 また,企業は発達障害者を雇用した場合「発達障害者雇用開発助成金制度」という助成金が支給されます。この助成金制度は,発達障害者を雇い入れた事業主に対し,賃金の一部を助成する制度で,大企業には年間50万円(短時間就労30万円),中小企業に対しては1年半にわたって135万円(短時間就労90万円)が支給されます。
 発達障害者に対しては,自分の障害をオープンにせずに就職したい場合でも若年コミュニケーション能力要支援者就職プログラムというものがあります。このプログラムではハローワークの障害者コーナーではなく,一般相談窓口での相談・支援を受けることができます。その際就職支援ナビゲーター(旧就職支援チューター)によるマンツーマンによる個別支援を受けることができますが,全国すべてのハローワークに配置されているわけではありません。このプログラムにおいて,発達障害をオープンにして就職しようとする場合は障害者専門窓口での相談し,地域障害者職業センター等との連携による支援を受けることができます。
 さらに,発達障害者を対象とした職業訓練制度が設けられています。これは,知識・技能習得訓練コースと実践能力習得訓練コースに分かれており,知識・技能習得訓練コースは,専門学校・各種学校等の民間教育機関,障害者に対する支援実績のある社会福祉法人,障害者を支援する目的で設立されたNPO法人等を委託先として基礎的な知識・技能を習得するもので期間は3カ月以内となっています。一方,実践能力習得訓練コースは企業を委託先とし,事業所を活用した実践的職業訓練で訓練終了後はそのままその企業で就職をめざします。こちらの期間は1カ月〜3カ月となっています。いずれも職業訓練であるため,訓練を行う事業所に対し,受講生1名につき月60,000円の委託料が支払われます。
 その他にも発達障害者の就労支援対策として,「就労支援者育成事業」というものがあります。これは発達障害者の就労支援を行う支援者に対して就労支援の知識を付与する「就労支援関係者講習」,在職中の発達障害者と就労支援者が休職中の発達障害者にアドバイスを行うという「体験交流会」。「体験型啓発周知事業」という発達障害者の雇用経験がない事業主に対して,理解・啓発・雇用促進を目的として行われる10日間程度の事業所において行われる短期の職場実習などがあります。