おわりに

T 障害者雇用制度
 いくつかの企業を廻って感じたことは,どの企業も「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいた障害者雇用を行っています。すなわち療育手帳や精神障害者保健福祉手帳を取得した障害者であることが前提となっています。その点では,2011年7月に発達障害者が精神障害者に含まれることになり,精神障害者保健福祉手帳が取得できることになったことは就労に大きな後押しとなったものと思います。また,3カ月間と限定されたトライアル雇用も企業側にとっては大変取り組みやすかったのではないかと思います。一度雇用したら中々解雇することが難しい障害者に対して,とりあえずは3カ月間雇用して様子を見ることができるからです。
U 支援機関
 発達障害者の雇用に関して,地域障害者職業センター等の支援機関の存在も大きなウェイトを果たしています。身体障害者や知的障害者と異なり,発達障害者とはどのような障害であるかが企業の人たちにとってはわかりづらいのです。そのわかりづらさを障害者職業センターにおける障害者職業カウンセラー等の支援者が企業と発達障害者の間に入り,うまくコーディネートをすることによって企業も安心して雇用に取り組めるようになりました。
V ジョブマッチング
 能力にばらつきがあることが発達障害者の特徴だと言われています。自閉症スペクトラムの人のように対人関係やコミュニケーションは難しくても,視覚的刺激には強い能力があり,コンピューター等のIT関係では素晴らしい能力を発揮しています。すべてのことにまんべんなくできなくても,彼らの能力特性を把握し,彼らに合った仕事を提供すること,すなわち適切なジョブマッチングを行うことも就労定着に大きな役割を果たしました。
W 親亡き後の居住を含めた就労支援
 諸外国と異なり,わが国では結婚して独立しない場合,働いていたとしても保護者と同居する人たちが増加しています。パラサイトシングルと言われるそうですが,発達障害の人たちも例にもれずアパートで独り暮らしをする人よりも保護者と生活している人が多いものと思われます。このような場合,保護者亡き後に自立して生活をすることができず,そのため仕事にも影響を及ぼし,離職することにつながる場合が出てきます。
 職業的なスキルだけではなく,一人で生きていく生活スキル,いわゆるライフスキルを身につけておくべきです。これはすべて一人ですべてのことをこなしていかなければならないという意味ではありません。できるところとできないところを明確し,できないところは何らかのサポートを受けてもいいでしょう。ただ,食生活や洗濯など保護者が行っていた支援は自分でできるように身につけておく必要があります。どのようなライフスキルが必要かは発達障害の人によって,また居住する地域によっても異なるでしょう。できるだけ早期からそのようなスキルを身につけておくことが必要です。
X 発達障害者理解啓発と自尊感情
 そして何より大切なことは,発達障害者そのものを変えようとするのではなく,彼らの障害特性を一緒に働く同僚や上司が理解し,彼らが行った仕事に対してきちんとした評価をしてあげることが極めて大切なことだと考えます。発達障害の人たちは子どものころから親や教師に叱られ続けられたり,友だちにいじめられたりした経験が多く,「自分は人とは違う,人と同じことができない」と常に自信を失っていました。そのため,就職しても自分はうまく仕事ができるのだろうかと不安な心理状態を示している場合も多々見られます。しかしながら,できた仕事が評価されることによりSelf Esteem,いわゆる「自尊感情」が高まり,自分も社会に貢献しているんだという自信が身につき,やりがいを持って仕事に取り組むことができるのです。
 障害のある人たちは障害があるからできないのではなく,まだ学習していないと考えるべきだといわれます。仕事ができないのではなく,その人に合った仕事ではなかったり,仕事を学習する際にその人に合った学習の仕方ではなかったりしたのかもしれません。よって,支援する側が彼らに歩み寄り彼らに合った仕事を提供し,彼らにわかりやすいような学習の仕方を検討してあげることも企業,支援者の役割の一つだと考えます。