『発達障害者の雇用支援ノート』

梅永雄二著
B5判/130p/定価(本体1,800円+税)/2012年9月刊

評者 志賀利一(国立重度知的障害者総合施設のぞみの園)


 最近,国の職業リハビリテーション機関である障害者職業センターのすべてで,発達障害者を対象とした職業準備訓練がスタートした。支援のノウハウや専門的知識の蓄積が乏しい発達障害者の就労支援について,国の機関が率先し,その準備訓練を提供し始めた。また,都市部で,障害福祉の給付事業の一形態である就労移行支援事業として,発達障害に特化した事業所がいくつも誕生している。そこでは,従来の知的障害や身体障害,そして精神障害者の授産施設や作業所とはまったく異なる独特のノウハウを通して,多くの人を一般就労に結びつけている。
 今回紹介する『発達障害者の雇用支援ノート』は,成人になった発達障害,それも就労について扱ったものである。この本の特徴は,発達障害者を雇用している企業の現場に,著者が足を運び,実際にその様子を確認し,管理者や同僚,そして発達障害のある従業員から話を聞き,まとめていることである。取り上げられた企業は8 社。私たちの国独自の制度である特例子会社から一般の会社,さらには発達障害者の働く場創出を事業目標としたユニークな会社まで含まれている。
 たとえば,無印良品で有名な株式会社良品計画が取り上げられている。良品計画は,18 名の発達障害者を雇用している。本社以外の店舗における採用には,ハートフルモデル店舗としての認定・評価・支援の仕組みが存在する。ハートフルプロジェクトという全社一貫した,障害者雇用の取り組みの中に,発達障害者の働く場が用意されているのである。さらに,一人ひとりの特徴や課題に合わせた,人事上の配慮も行なっている。このように,雇用管理上の仕組みや配慮から,発達障害者の就業の可能性の広がりを訴えるのがこの本の目的である。
 ここで確認が必要になる。民間企業が発達障害者を採用し,障害特性や一人ひとりの能力にマッチした配慮を行うのは,ほとんどの場合,障害者雇用促進法上の障害者である。各社の雇用に対する考え方や雇用管理方法の前提には,この法律が存在している。また,障害者雇用として期待されている職務や労働条件も読みとれる。最初に紹介した職業センターや就労移行支援事業の新たな取り組みも,この法律が大きな役割を担っている。しかし,この本でユニークな会社として紹介されている2 社は,かならずしもこの法律を前提としのではない(1 社はデンマークの事例だから当然)。楽観論ではなく,発達障害者にとって,障害者雇用は大切であるが,それがすべてではないことも忘れてはいけない。
 現在,若年者の雇用状況は厳しい。非正規社員の経済状況の厳しさは,高度経済成長以降始めて直面している大きな課題である。若者の経済格差について扱った書籍は多い。この本は,そういったマイナスの側面とは正反対の爽やかな事例を取り上げ,社会に変化を訴える本である。