『DV加害者が変わる−解決志向グループセラピー実践マニュアル

M・Y・リー,J・シーボルド,A・ウーケン著/玉真慎子,住谷祐子訳
A5判/288p/定価(本体4,200円+税)/2012年9月刊

評者 中村 正(立命館大学)中村 正


 ゼロトレランス(不寛容)政策によるDV への積極的介入と逮捕政策,重篤な事案の刑事事件化と多様な加害者へのダイヴァージョン政策(刑事罰を課すことの代替策としてのプログラム受講制度),バタラーズプログラムによる現実的なハームリダクション措置が,被害者を支援する緊急相談から立ち直り支援までの体系化とともにDV 問題の解決には必要である。暴力の根源への介入である。
 そこで次の問題は,裁判所による命令であれ,任意の選択としてであれ,加害者が参加することになる更生のためのプログラムの内容である。一般的には認知行動療法を基礎にしで自らの暴力を振り返り,暴力を肯定してきた認知的行動的特性を知り,再発しないように自己統制を加えていけるように体系的学習をおこなうものである。現状では,被害者アドボケイトの経過もあり,加えて,男性の加害が多いことを前提にしたジェンダー教育プログラム,心理教育プログラムが主流となっている。アメリカ,ミネソタ州の「ダルースモデル」が有名である。しかしその後,プログラムからの脱落率が高いこと,多様な類型の加害者に一つの政策やプログラムしかないこと(One size fits all)への批判,再犯率による効果測定をとおしたプログラムの精査の必要性等が主張され,プログラムの内容,期間,評価,担い手,位置づけ(教育なのかどうか)等の基本に関する問題が政策論争や学術論争となっている。
 本書はこうしたことを前提にすると,より加害者に受け入れられやすく,自らが行動変容に向かうことを支援するための最良の書といえるだろう。解決志向セラピーの基本をDV 加害者のグループ・セラピーに応用したものである。ファシリテーターと加害者たちとのやりとりの逐語録も随所にあり,リアルな理解が可能となっている。「抵抗する,敵意のある,難しい加害者」たちとの信頼関係をつくり,加害者自らが行動を変えていくことができるような協働関係をつくるセラピーの過程を追体験できる構成となっている。アセスメント面接にはじまり,プログラムの効果の評価まで,合計8 回のグループセッションで終了する短期プログラムが丁寧に紹介されている。第3 回目には
各人のゴール(目標)を決め,それを確実なものにしていく宿題を課し,「相手を責めない話し方」をもとにしてグループであることの強みを活かす過程が詳細に記されている。
 他にも,解決志向セラピーの鍵となる「プロブレムトークとソリューショントーク」の違い,「これまでとは確実に違う行動を取り入れ変化を確実かつ具体的なものへと導くこと」の詳細,加害者の長所に力点をおくアプローチ(ストレングスアプローチ)を導入すること,告白を求めない,教育をしない,従順を強要しない,問題を解決しない,臨床的診断をもとにした推測で理解や意味づけをしない加害者臨床の基本等が説かれる。
 解決志向グループ・セラピーが首尾よく作動するためには司法それ自体が「問題解決型司法problem-solving court」として構築されているべきである。このアプローチはDVや虐待などの行動問題にくわえて,アルコールや薬物問題を抱えた加害者たちに同じように応用されうる。なんらかの障害のある人の触法行為については治療的司法therapeutic jurisprudence,被害者と加害者の対話を含めた修復的司法(正義)restorative justice 等の司法再編が諸外国では効を奏しつつあり,それとともに心理臨床の様相も変化してきたといえる。こうした司法と心理の両面から新しいニーズをもった当事者たちを「ジャスティス・クライアントjustice client」と呼ぶ。その人たちに相応しいアプローチとして解決志向セラピーが位置づくだろう。脱暴力へとむかう制度,技術,臨床をセラピストだけではなく社会が有することはひとつの希望でもある。 原書 Mo YL, John S & Adriana U : Solution-Focused Treatment of Domestic Violence Offenders :Accountability for change