『DV加害者が変わる−解決志向グループセラピー実践マニュアル

M・Y・リー,J・シーボルド,A・ウーケン著/玉真慎子,住谷祐子訳
A5判/288p/定価(本体4,200円+税)/2012年9月刊

評者 田中ひな子(原宿カウンセリングセンター)


 1980 年代の半ば,米国では保護観察中のDV(ドメスティツク・バイオレンス)加害者に対する裁判所命令の一つとして更生プログラムへの参加を義務づける制度ができた。それらのプログラムの多くは「DVの問題や家父長的・性差別的な価値観を自覚することで責任をとり,加害者に欠如している暴力を用いない考え方や行動(コミュニケーション・スキル,アンガー・マネージメント,ストレス・マネージメントなど)を再教育する」という内容で認知行動療法やフェミニズムに基づくものであった。著者らも,そのようなプログラムを行ってみたが,高い脱落率,暴力行為の継続,料金の不払いなどの問題に直面して,何か違うことをする必要に気づき,新しいプログラムを生み出した。
 本書は,解決志向アプローチによるDV加害者のためのグループセラピーの実践マニュアルである。プルマス・プロジェクトと名付けられたこのプログラムは,米国カリフォルニア州ブルマス郡で行われているDV加害者を対象としたプログラムである。
 男女8名から12名の参加者と男女各1名のファシリテーターで構成され,3カ月に8回(1回1時間)のセッションを行う。従来のプログラムに比べて高い効果があると実証されている。
 このプログラムの基礎となっている解決志向アプローチとは,クライエントの問題(病理)やその原因を問うのではなく,その人の長所や健康的な面,資源に焦点を当て,クライエントと協働して解決を構築していこうとする対人援助法である。現在このアプローチは,医療や心理相談ばかりでなく,教育,福祉,産業,司法などさまざまな領域で活用されている。
 本書の構成は,まず第1章で,加害者プログラムの現状を概観して,従来の「問題の責任追及」を重視するアプローチとの相違点を論じながら,「解決の主体的関与」を最優先する解決志向のプログラムの特長とパラダイムが示される。従来のアプローチでは,参加者が非難されていると感じて対決的な関係に陥りがちで脱落率も高くなる。一方,解決志向では参加者が自らゴールを設定し,それに取り組む努力を尊重するので,短期間で協力関係を築いて肯定的変化をもたらすことができるという。
 第2〜9章では,クライエントからの最初の電話コンタクト,アセスメント面接,8回のグループセッションの進め方がわかりやすく述べられている。詳細な逐語録が示されているので実際のやり取りが実感され,雰囲気も伝わってくる。節末ごとに考慮する点がリストアップされているので理解を確認しながら読み進めることができる。グループには,アルコールや薬物問題のある人,精神障害と診断された人,多様な民族・人種的背景をもつ人もかなり参加しており,そうした人たちへの配慮と工夫が記されている。セッション後のチームの話し合いも,グループ同様,解決志向で行われており,その逐語録から著者らの一貫性のある臨床的姿勢が感じられる。第10章ではプログラムの評価を示している。このプログラムでは終了後に,保護観察所,地区検察局,被害者相談所から再犯のデータを集めている。さらに,参加者の身体的・言語的虐待行為に関して,参加者とその配偶者・パートナーから外部のインタビュアーによって電話面接で聞き取りを行う。従来のプログラムは脱落率50%,再犯率が30〜50%で有効性が明確ではないといわれてきたが,このプログラムは脱落率7.2%,再犯率16.7%という優れた結果であった。
 このプログラムは,地方検事,保護観察所,判事,被害者相談所との連携の中で,裁判所命令という法的権力の強力なサポートによって可能となっていることを著者らは強調している。だからこそ,ファシリテーターは,参加者と協力関係を作り変化を起こすという役割に専念することができるのだ。残念ながら,日本ではそうした条件がまだ整っていないので,このプログラムをそのまま実践することは難しいかもしれない。だが,評者の勤務する民間相談機関では,「DVという自覚はないが,妻に強く勧められた」と不本意ながら来談するクライエントが増えており,このアプローチが役立っている。DV加害者と関わる臨床家,司法領域における臨床家,解決志向アプローチに関心を持つ臨床家,自発的ではなく裁判所命令や家族,上司などの強い勧めによって不本意ながら来談するクライエントと関わる臨床家に本書の一読をお勧めしたい。
 DV被害者の支援という観点から,わが国においても裁判所命令によるプログラム参加の義務づけの実現や関係機関の連携が進むことを評者は願っている。「加害者は変わる」という認識が高まることで,このような法制度とプログラムの実現に近づくのではないかと思う。本書が訳出された意義は大きい。

原書 Mo YL, John S & Adriana U : Solution-Focused Treatment of Domestic Violence Offenders :Accountability for change