序文

 誰もが知っていることかもしれないが,薬物乱用への専門的援助を断固として拒否する人がいるようである。家族が考えられる全てを尽くして,依存症者に治療を受けることを納得させようとしても,薬物依存症の患者は,クリニック,病院,薬物乱用者センターに頻繁に自暴自棄な電話をするだけである。悲しいことに,これらの機関は一般的に,こうした人たちに提供できるものは多くない。また,他の家族は慢性的なアルコールや薬物の危機の真っただ中に生活することで生じる不安や抑うつのために自分自身が治療を受けている。最終的に,抵抗する人を治療につなげるために,家族が適切なセラピストに依頼しても,多くのセラピストは対応方法をわかっていないことに気づかされる。これまで,セラピストや機関の唯一の選択肢は,かなり対立的なジョンソン研究所式介入を勧めるか,もしくはクライエントが薬物乱用から「距離を置く」方法を学ぶためにアラノン(Alcoholic Anonymous Family Group: Al.Anon;匿名アルコール依存症者の家族の会)のミーティングを勧めるかの,いずれかであった。おそらく,驚くことではないが,多くのクライエントは,これらの選択肢が受け入れられず,懇願,脅し,または薬物乱用者に使用をやめ専門家の支援を受けるように責めるといった,それまでのパターンに頼らざるを得なかった。
 この本は,セラピストが対立的でも,分離でもない科学的に支持されているプログラムを提供することができるように書かれている。代わりに,コミュニティ強化と家族訓練(Community Reinforcement and Family Training:以下,CRAFT)では,アルコールや薬物の問題を抱えた人を治療につなげることを目的に,薬物乱用者に対する主な関係者(Concerned Significant Others:以下,CSO)の行動を変容させる方法を教えている。重要なのは,CRAFT がCSO に薬物乱用の問題への責任を感じさせるのではなく,単に,解決を促進する方法を提供しているということである。CRAFT はまた,それ以外にも二つの目標を掲げている。治療の間に,薬物乱用者の薬物使用を減らすこと。そして,CSO のその他の多様な問題を標的とすることで,CSO が自身の幸福感を高めるのを援助することである。
 CRAFT は,治療への抵抗感がある飲酒者や不法薬物使用者の研究において顕著な成果を上げている。CRAFT を受けることで,家族(たとえば,配偶者,両親,兄弟,成人した子ども),または乱用物質の友人のうちの64〜86%は,治療を拒否している大切な人(loved ones)を治療プログラムに参加させることに成功している。この割合は,ジョンソン研究所式介入やアラノンといった伝統的な選択肢よりも劇的に高い。また,平均してわずか5 セッションで治療に参加し始める。そして,大切な人が治療を受けているか否かに関係なく,CSO は総じて,自身の生活により満足し,心理的により健康になる。
 CRAFT は,行動原理と認知・行動技法に基づくプログラムである。これは,治療を受けることに同意した薬物乱用者のために作成され,科学的に支持された治療,コミュニティ強化アプローチ(Community Reinforcement Approach:以下,CRA)の発展型である。CRAFT の初版は,ロバート・メイヤーズによって開発され,シソン(Sisson)とアズリン(Azrin)によって1980 年代に検証がなされた。問題飲酒者に対するCRA において,研究者や臨床家は,飲酒者のかなりの人は治療を求めることを望んでいないが,強く動機づけられた家族が飲酒している時や飲酒していないときの状況におけるかかわり方を変えることで,飲酒者に強力な影響力を及ぼすことが示された。この決定的な役割を活用するようにCRAFT は作られている。
 そのため,しらふの行動を強化し飲酒や薬物使用を勧めない,肯定的な方法でコミュニケーションをとる,ニーズに応じて問題解決技法を使う,家族自身のニーズに配慮する,そして薬物乱用者に効果的に治療を提案するといった,関連する技術を,セラピストは家族に教えている。プログラム全体を通じて,潜在的な家庭内暴力の問題も考慮されている。
 現時点において,「コミュニティ強化と家族訓練」の「家族訓練」は明確かもしれないが,「コミュニティ強化」はそれほど明確になっていないかもしれない。CRAFT のコミュニティ強化には,CSO が家庭の「コミュニティ」を変えなければいけないということが暗示されている。
 そのため,しらふでいるだけで正の強化を受ける(ほめられる)のである。また,この「コミュニティ強化」はCSO が,大切な人の慢性的な物質乱用問題に取り組むことで中断してしまうことが多い自身のコミュニティを拡大するという快適な側面に再び取り組むことによって,直接的に自分自身を強化することも含んでいる。
 どのタイプのセラピストがCRAFT を効果的に学び実施することができるだろうか?おそらく強調すべき最も重要な点は,もしクライエント(CSO)が物質乱用者でなければ,CRAFTのセラピストになるためにセラピストが薬物依存のセラピストである必要はなく,依存行動の
治療経験を積む必要もないことである。そして,認知行動論や行動論を専門とすることは,CRAFT を学ぶ際にいくらか有利かもしれないが,もしセラピストが経験的に支持された新たなプログラムを経験することに真に開かれて,適切なスーパービジョンが利用できれば,これは必ずしも必要ではない。この本は,多様な専門的背景の素晴らしい臨床家(セラピスト,ソーシャルワーカー,心理学者)が,CRAFT の手続きを学べるように,手続きと要点を明確に説明している。全体を通して,数多くの事例やセラピストとCSO の対話が例として示されている。
 この臨床家に優しい本は,治療を拒否する物質乱用者を愛しているが故に取り乱した人々への治療の成功のために科学に基づいたプログラムを提供することで,治療現場における大きな隙間を埋めている。何よりも,CRAFT プログラムが「強化」を特に強調していることは,多くの場合,臨床家とCSO に受け入れられている。今やそれは,この困難な領域の研究において長い間失われていた楽観と活気の感覚を扇動している。

CRAFT 研究の最新情報(2008)
 二つの新しい研究がCRAFT を検証しており,両研究とも特定の人々に対して行われている。ウォルドロン(Waldron)らの研究では,薬物問題があるにもかかわらず治療を拒否している青年を対象とした非無作為化試験においてCRAFT が用いられている。青年の両親は,CSO としてCRAFT の手続きを教えられた。従来のCRAFT 研究の治療契約率と同様で,71 %(30/42 )のケースでは,両親が青年を治療に参加させるのに成功した。また,青年を治療に繋げられたかどうかにかかわらず,両親自身の抑うつや不安に有意な減少が認められた。第二のCRAFT 研究は,地域精神保健センターで行われたドゥッチャー(Dutcher)による統制群のない治験である。この研究の二つの主な目的は,次の時にCRAFT を用いる妥当性を検証することであった。一つは,関心を示す多くのCSO を除外する厳密な除外基準がない時であり,もう一つは,CRAFT のセラピストが研究スタッフではなく,地域機関の典型的なセラピストである時である。最終的な治療参加率は,少なくとも3 回のセッションを受けたCSO に限定しても68%であった。つまり,青年と地域のクライエント/スタッフに焦点を当てたこれらの最新のCRAFT 研究は,それまでのCRAFT 研究の結果と比較して注目に値する治療参加率を示したのである。

文  献
Dutcher, L. W., & Gardin, J(. 2007). Implementing CRAFT in a community mental health center: An effectiveness study. Manuscript under review.
Waldron, H. B., Kern.Jones, S., Turner, C. W., Peterson, T. P., & Ozechowski, T. J(. 2007). Engaging resistant adolescents in drug abuse treatment. Journal of Substance Abuse Treatment, 32, 133.142.