『CRAFT依存症患者への治療動機づけ−家族と治療者のためのプログラムとマニュアル

J・E・スミス,R・J・メイヤーズ著/境 泉洋,原井宏明,杉山雅彦監訳
B5判/300p/定価(本体3,800円+税)/2012年9月刊

評者 神村栄一(新潟大学)


 原書版タイトルや日本語翻訳版タイトル,CRAFT(Community Reinforcement and Family Training)という技法名にも,「認知行動療法」(以下CBT と表記)は含まれない。しかし中身は,よく洗練された,きわめて実践的なCBT テキストである。
 「コミュニケーション・トレーニング」,「問題行動の機能分析」,「強化」,「タイムアウト」といった行動分析学オリエンテーションの技法の,実践的な解説が中心である。CSO(依存症IP の「主な関係者(Concerned Significant Others)」をさす)を対象としたこれらについての心理教育やスキル訓練的介入,面接上の配慮が,IP の改善への「動機づけ」の向上につながるというねらいである。
 本書にも紹介があるとおり,「CRAFT の訓練をうけたCSO の64 〜 86%のケース」が「比較的短い期間で,これらの治療に抵抗する物質乱用者を治療につなげることができていた」とある。エビデンスの確認も十分らしい。
 なかなのボリュームであるが,いたるところに,面接の逐語録を含む解説があり,本書に「入眠導入」的作用(?)は期待できない。「わらにもすがる」の思いで来談されたCSO への,温かい中にも,表面的な受容と共感でごまかさない,「骨太」な具体的支援の面接モデルがふんだんに示されている。
 筆者はCRAFT の軸は「問題行動の機能分析」にあり,と見た。本書にあるとおり機能分析は,個々の問題行動という点を線でつなぐような理解を可能とし,そこから導かれる一貫性ある対応の意味を,CSO に理解していただくための配慮が手厚い。彼/彼女らがIP からしばしば受ける暴力への対処も,リアルに紹介されている。
 筆者には特に,「部分的責任partial responsibility」という表現が印象的であった。ギャンブル依存の家族で言えば,よくある借金の肩代わりがその典型であろうか。日本語の「責任」はちと刺激的すぎる。「たいへん申し上げ難いのですが,よかれ,との愛情にあふれたこれまでのご支援のうちの一部が,IP の問題の悪化,改善しにくさの片棒を担ぐ結果になってしまったのかもしれません。
 そのあたりを含めた見直しを,これからすすめていきたいと思います」あたりが,ぎりぎりか。本書を元にして,CSO との面接での言葉遣いのロールプレイを職場で展開できたらさらに有用かもしれない。
 本書は,薬物の問題,アルコールの問題に限らず,多くの嗜癖の問題に携わっておられる実践家の方々には文句なくおすすめである。特に,「考え方を変えてつらい気分にサヨナラしよう!」的な一部のCBT の効果には限界を感じつつあるという方に。家族への支援についての実践が,いくらかでも体系化されるのではないだろうか。技術の体系化は,技術の伝承につながる。若手同僚へのご指導にも,便利かもしれない。
 監訳・翻訳陣は,日本のCBT,行動分析学,依存症患者への動機づけ面接をリードする重鎮,エキスパート,若手の精鋭という布陣。「ひきこもり」研究の第一人者の境泉洋氏が本書との出会いについて触れられた,「監訳者あとがき」も興味深い。たしかに,ひきこもりへの依存,家庭内の「暴君的」ふるまいへの依存,自傷やOD への依存,性的逸脱への依存など,他の問題へのCBT への発展,応用が期待できそうな予感が湧いてきた。なお,全体として「超訳」とは言えないが,専門家向けマニュアルであるからこれで十分であろう。

原書 Smith JE, Meyers RK : Motivating Substance Abusers to Enter Treatment : Working with Family Members