序文

 『はじめはみんな話せない』、この本のタイトルを思いついてから十数年が経っています。十数年という月日の中で、発達障がいのある子どもたちの指導方法や考え方は大きく変化しました。行動分析に基づいた技法(応用行動分析= Applied Behavior Analysis : ABA)は、有効な指導法としての地位を日本においても確立してきました。関西や関東ではABA を提供する民間の療育機関が増え、研究機関でなければABA が受けられなかった十数年前に比べると少しは選択の幅が増えてきました。ABA に関する図書を検索するとAmazon で100 冊以上の
図書がヒットし、その多くは発達障がいのある子どもに関する図書です。「家庭で…」「楽しく…」「ほめて…」など、ABA の大切な原則をタイトルにした図書がたくさん出版されてきました。
 この本は、一般向けの本ではなく専門書です。しかし、行動分析の知識が十分でなくても読んでいただけるように、コラムや用語解説を入れました。行動分析を学び、現在子どもたちの療育に関わっている人たちは、機会利用型指導法や般化を促進するための技法を、当たり前のように用いていることでしょう。PRT、刺激等価性や関係フレーム理論に基づいた指導を行っているかもしれません。それらの技法が用いられるようになってきた背景には、大切な理論的検討がありました。行動分析学は、理論と実践との相互的な還流を信条とする学問です。発達障がいのある子どもたちへのABA の歴史を理論と実践の相互還流の観点からまとめたのがこの本です。理論を学びながら技法を適用し、臨床的な発見を理論へと還元していく姿勢が、これからも行動分析学を発展させ、発達障がいのある子どもとその家族へのしっかりとした支援につながっていくと思います。そういう願いをこの本に込めています。
 この本のコラムには、行動分析の基礎的な用語を学ぶためのクイズがあります。これは、2008 年から2010 年までの科学研究費基盤研究(C19530880)の助成を受けて実施した「特別支援教育にかかわるスタッフトレーニングプログラムの開発」で用いたテキストやワークブックで使用したものです。そのテキストやワークブックの作成には、研究協力者である大尾弥生さん(LLC. Angel College)の協力を得ました。コラム文末の[yayoi]のマークは、彼女の文章であることを示しています。本書のために快く掲載を承諾していただいたことに、心から感謝します。彼女は、私のところで実践経験を積んだ人の中でもっとも優秀なトレーナーのひとりです。
 私の臨床経験の中で、いくつかの幼稚園や保育園と長いお付き合いがあります。幼稚園や保育園での子どもたちの自然な様子を先生たちと一緒に体験できたことは、私の臨床経験の中でとても大切なものとなっています。坂上仁美先生もそのお一人で今回幼稚園での事例を提供していただきました。本としてまとめるにあたって、大阪人間大学の北村琴美先生には、丁寧に原稿を読んでいただき、貴重なコメントをたくさんいただきました。皆様への感謝でいっぱいです。
 金剛出版の藤井裕二さんは、ほんとうに正の強化が上手な編集者です。彼の強化が私の執筆行動を維持させてくれました。彼の丁寧な文章校正と的確なコメントが書くことを楽しくさせてくれました。

2012 年7 月20 日
ワシントンDC にて