『素行障害−診断と治療のガイドライン』

齊藤万比古編
A5判/336p/定価(4,500円+税)/2013年6月刊

評者 小野善郎(和歌山県精神保健福祉センター)


 少年非行,非行臨床,非行心理学などの専門書は数多く出版されているが,素行障害をタイトルに含む専門書はわが国では珍しく,本書は素行障害に真正面から向き合った本邦初の出版と言っても過言ではないだろう。実際に,主タイトルに「素行障害」が含まれる書籍は本書以外には見あたらず,従来の用語である「行為障害」をタイトルに含む書籍も非常に少ないので,わが国では長らく忘れ去られてきたテーマといえるかもしれない。
 素行障害は精神医学の診断分類であるので,「素行障害」をテーマとした出版がないことからは,子どもの非行行動に対する精神医学の関心の低さが示唆される。たしかにわが国では,素行障害は精神科臨床ではマイナーな診断であるどころか,むしろ否定的な見方が強い傾向が続いている。実際に,児童青年期を専門とする精神科医療機関ですら素行障害という診断名が使われることはまれで,児童精神科医のなかには自分の患者にこの診断を付けたことがない人も少なくないだろう。
 素行障害が今日の精神科臨床で関心が低い要因として,この診断の臨床的有用性や妥当性に対する専門家の疑問がある。たしかに単に非行少年に素行障害の診断を付けても治療や予防につながらないかもしれないが,それ以前に臨床家たちの間に非行行動を精神保健の問題として扱うコンセンサスがないようにも思われる。最近では,素行障害の背景にある本当の精神障害として発達障害や愛着障害を診断することに関心を向ける専門医も増えてはいるが,だからといって素行障害という診断の価値が否定されてもいいわけではない。
 素行障害の概念と診断としての妥当性については,これからもさらに検討していく必要があることは言うまでもない。児童青年期の攻撃的・反社会的行動は児童青年精神医学のもっとも重要なテーマのひとつであることは今日においても変わらず,われわれ臨床家はこの問題から目を背けるわけにはいかない。その意味において,本書は素行障害に対する臨床的な取り組みの出発点として重大な意義を持つものであり,児童青年期の精神保健に関わるすべての臨床家にとって欠かせない教科書になることだろう。
 素行の問題は社会的規範とも関連するため,診断や治療においては社会文化的要因の影響を十分に考慮する必要がある。そのため単に欧米の研究や実践を紹介するだけでは不十分であり,日本のコンテクストへの配慮が欠かせない。本書の中で紹介されている素行障害の評価・診断,治療,事例は,いずれもわが国の医療,教育,福祉,司法の枠組みの中での実践であり,まさに即戦力的な実用性がある。残念ながら,網羅的なガイドラインであるため,各項の記述に物足りなさは残るが,編者が今後の課題としてあげているように,ここからの発展が期待される。本書はまさにわが国における素行障害の臨床のスタートラインといえよう。