『現代催眠原論−臨床・理論・検証

高石 昇,大谷 彰著
A5判/400p/定価(本体6,800円+税)/2012年11月刊

評者 渡邉直樹(浅田病院)


 本書はわが国および世界の催眠および催眠療法の現況に関して最も精通した両著者が,長年の歳月をかけて意見交換をしながら作り上げた大作であり,催眠および催眠療法に従事する人たちにとって欠けていたものを補う待望の書といえる。
 その際両著者は催眠および催眠療法の現状に関して強い危機感を抱いている。たとえば最終章で,「催眠が科学として認められるに至った現在でさえ,催眠には,暗い背景,オーラがつきまとうという不幸な事実である」とのべ,ショー的催眠や素人催眠の横行に対して危機感をあらわにしている。それに対して本書は催眠の「理論の詳解」,「技法の具体的詳述」そして「最新主要文献の解題と紹介」という三本の基軸を目標に書かれている。エビデンスに基づき,催眠および催眠療法の科学的な根拠を提示し,催眠療法の実施にあたっても本書を座右におくことを勧めている。
 まずは催眠とは何かという定義を述べ,専門家を二群にわけている理論,すなわち「催眠を解離や心的退行といったメカニズムによって生じた変性意識(トランス)とみなす立場(状態論),他方これとは逆にモチベーションや期待,役割習得といった通常の心理概念によって起こる反応とみなす立場(非状態論)」を説明し,今日では脳画像診断の発達がこの両者の膠着状態となった論争に終止符をうつのではと述べている。そして催眠の歴史的変遷から,現在の最も優れた「エリクソン催眠」について説明する。催眠療法でなによりも大事なのは催眠のそれぞれの場面で被催眠者の気持ちをくみ取りながら暗示を与えていくことの重要性を説く。もちろんこれは催眠療法以外の通常の
治療者−患者関係ならびに人と人が相互理解する時に何よりも大切なことなのである。そのためにもエリクソン催眠は多くの示唆を与えてくれるのである。また催眠療法に際しては暗示が大きな役割を演じるのであるが,それはことばから成り立つのであり,本書でその実例を学ぶことができる。
 催眠誘導の原則と技法が述べられ,臨床催眠では本来の催眠療法のアプローチである「催眠を主体とする療法」の他に,さまざまな精神療法を併用する「催眠促進による療法」を説明する。催眠精神分析や催眠認知行動療法などである。ここに催眠森田療法を入れることもできるのであろう。そして催眠療法の適応となる疾患群について,事例を紹介しながら説明している。
 これまでの専門書のほとんどが,素人向けの「催眠術本」であったが,ようやく世界にひけをとらない本書が刊行され,これまでのわが国への催眠療法導入の努力がいま身を結ぼうとしている。今後は国際催眠学会(ISH)のわが国からの加入団体である両著者らの「日本臨床催眠学会」(JCSH),「日本催眠医学心理学会」(JSH)そして「日本催眠学会」(JIH)が互いに協力しあって,わが国の催眠および催眠療法の質の向上を図っていく必要がある。本書はそのための指針になるものといえる。