『発達障害支援必携ガイドブック−問題の柔軟な理解と的確な支援のために

下山晴彦,村瀬嘉代子編
A5判/520p/定価(本体5,800円+税)/2013年3月刊

評者 清水康夫(横浜市総合リハビリテーションセンター,横浜市北部地域療育センター)


 先ごろ厚生労働省は,わが国の全人口に占める障害者の割合を6.2%と推計,公表した。これは身体障害,知的障害,精神障害を合わせた数値であるが,実のところこのなかで発達障害がどの程度把握されていたかは定かでない。一方,昨年の暮に文部科学省は,公立小中学校一般級のなかで発達障害の可能性がある児童生徒の割合が6.5%に上るとの全国調査結果を報告している。高い割合にあらためて驚かざるを得ない。この子どもたちが全部,発達障害に該当するわけではなかろうが,学校の一般級において発達障害の問題がクローズアップされている現実を垣間見させる数値である。
 学校の調査結果から考えれば,先の厚生労働省の調査で発達障害については軽視できないほどの数が漏れてしまっていた可能性を否定できなくなる。このように発達障害については周囲に把握されていない潜在ケースがかなりの数あると推察され,発達障害の発見から適切な対応までの至るところのステップに解決すべき課題が山積しているものと思われる。発達障害の言葉はそれこそ一般の人々の間で広く知られるようになったものの,同時にこの障害が理解されること以上に誤解されることが深まっている側面はないかと懸念される。
 このような現状にある発達障害に関して,われわれに一定の見通しを与えてくれるガイドブックの存在は重宝である。本書では,発達障害の理解,発達障害に関連した問題の所在,そして対処の方法などが一冊に収められている。一見して分厚い辞書のような風格があり,500 頁を超えるのであるから一気に通しで読むには骨が折れるかもしれない。各章は順に,「問題の解決支援に向けて」「問題の理解から支援へ」「診断を正しく理解する」「アセスメントを支援につなげるために」「特別支援教育の発展に向けて」「的確な支援のために応用行動分析を活用する」「応用行動分析を活用した学校支援の実際」「社会との接点における問題に対処する」「家族・集団を媒介として支援する」「発達障害をうけとめる」「発達障害と共に生きる」と展開され,全11 章から成る。問題の所在に始まり,支援者側の持つべき知識と技能に続き,当事者の立場から体得された対応の原理が述べられる。本書は,発達障害にかんする概念や用語を百科事典風に解説したものではない。発達障害の臨床に携わる,あるいはこれから携わろうとする人々に対して,ときに具体例を引用しつつ,就学から成人まで,医療,教育,福祉,労働,司法の各分野にまたがるパースペクティブで必要な情報が盛られている。分量の多さは,そのような編集方針に由来するのであろう。
 各章は独立性があるため,読者は関心のある事項について,それに答えている章を見つけることができるであろう。ただし,すべての内容が必ずしも統一された立場で貫かれているわけではなく,各著者の裁量が許されているようである。ガイドブックとは,もともと不案内の人にオリエンテーションを与える役割が第一の目的である。しかし本書は,発達障害児・者の支援にある程度の経験がある人たちにとっても答えてくれる内容がある。評者もいつのまにか分厚いページを滑らかに読み進めることができた。34 名の著者らが発達障害の臨床・研究に傾ける熱意,発達障害の人々に向ける温かなまなざしを文中に,行間に感受したのかもしれない。
 編著者の言うように,今まさに人々の存在の多様性から出発する障害対応のあり方が問われている。発達障害の人々に対する支援が,医療,教育,福祉,労働,司法のあらゆる分野において発展しつつあることは確かである。分野を貫くパースペクティブをもったガイドブックの存在は,直接の支援に携わる人たちにとってはもちろんのこと,広い読者層にとっても有益な1 冊となろう。