ゲシュタルト療法では,現実適応,すなわち絶えず変化する外界に適応するとは,“今,ここ”に生きているときと考えられている。換言すれば,“今,ここ”に生きるということは,図と地の反転が円滑になされるときにこそ可能になると仮設されている。
 最後に,“今,ここ”についてのパールズのエピソードを一つ。パールズは,「実にユニークな人物で,単に,医師,好敵手,カリスマ的存在,愛人,下品な老人,芸術家,作家などといった名称では捉えることのできない大きなスケールの持ち主であった。彼は歳をとっても,普通,西欧の社会でいう老いを感じさせなかった。それどころか,歳とともに今を生きる術に磨きをかけ,またときおり描いていた絵画の腕を上げていった」(Perls, 1998)とのことである。編者もあやかりたいと思っている。
 さて,この著書は,このようなゲシュタルト療法の主概念である“今,ここ”に焦点を当てて,長年,研究と実践を積み重ねてきたものたちが,各々に報告し,あるいは思うところを書き下ろしたものである。第1章は編者のもので,今までに蓄積してきたものである。エピソードとしては,スーパーヴィザーから,「君は人生というような基本的なところでのサバイバルする力は大いにあるが,“今,ここ”ではまだまだ課題がある」と言われたことがある。
 甚く身にしみて,それ以来“今,ここ”で納得のいく応答の力をつけたいと思ってきた。本書を執筆しながら思い出した。第2 章以降の各章をお読みいただいて,みなさまはどのような気づき,あるいは感想をお持ちでしょうか。日頃の,みなさまの心理臨床の某かの刺激になれば幸いである。
 最後に,本書が日の目を見たのは,幾人かの方々のご厚情のおかげである。まず梅田光恵さま(ぎょうせい)のご尽力がなければ刊行はおぼつかなかった。ここにお礼を申し上げたい。金剛出版の編集の方々,とりわけ担当していただいた中村奈々さまの労にも,こころからの謝意を表したい。つねづね思うことであるが,一冊の著書が刊行されるのは,出版社や編集者とのコラボレーションのおかげだと思っているが,今回もそのことを実感させられた出来事であった。感謝である。

編  者