このたび,特定の恐怖症のひとつに位置づけられる「嘔吐恐怖症」のモノグラフを世界ではじめて刊行することができました。そもそも,私が「嘔吐恐怖症」という今まで注目されてこなかった疾患に気づいたのは選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor : SSRI)を患者に処方する際に,「SSRI の服用初期に軽い吐き気が出現することもありますが自然と治まっていきますよ」と説明したところ‘吐き気’という言葉に過剰に不安を感じSSRI の服用を断念された患者が少なからず存在したことが「嘔吐恐怖症」に関心を持った契機となりました。
 2011 年(平成23 年)2 月に開催された第3 回日本不安障害学会学術大会において,「嘔吐恐怖症の病態と治療」というシンポジウムを開催いたしました。私の精神科臨床の師である貝谷久宣先生のご賛同を得て開催したシンポジウムは予想に反して盛会裡に終了いたしました。ご参加された日本を代表する先生方からさまざまな貴重なご意見をいただきました。これらの貴重なご意見を書籍にして広く「嘔吐恐怖症」を知っていただこうと思ったのが本書刊行の動機でした。
 幸い,シンポジウムにご参加された先生方は大変ご多忙のところ執筆を快諾されました。本書の出版は,多くの先生方のご支援なしにはあり得ないものでありました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。本書の特徴は「嘔吐恐怖症」をさまざまな角度から検討した貴重な論文の集積です。本書を一読されると「嘔吐恐怖症」のみならず「特定の恐怖症」に対する認識もより深まると思われます。
 読者対象は,精神科医,心療内科医のみならずプライマリーケア医,一般内科医,消化器内科医,小児科医,心理士,看護師をはじめ,嘔吐恐怖症に関心のある方も含んでいます。「嘔吐恐怖症」に関する世界で初めてのモノグラフとして,本書が世界に向けわが国からいち早く情報を発信するポテンシャルを有し,「嘔吐恐怖症」の治療者および患者様にとって福音となることを願っております。また,本書をきっかけにして,「嘔吐恐怖症」の臨床に携わってみたい,と考える治療者が一人でも多く出現することを願っております。
 このあとがきの締めくくりとして,いつも暖かく懇切丁寧にご指導いただき,本書監修の労をおとりくださった貝谷久宣先生に改めて感謝申し上げます。また,ご多忙のところご専門の立場からご執筆いただいた先生方に厚く御礼申し上げます。
 最後に,本書刊行の意義をご理解いただき,刊行を許可された金剛出版の立石正信社長に厚く御礼申し上げます。さらに,私のわがままな要望にいつも丁寧に応えていただいた金剛出版編集担当の藤井裕二氏に改めて感謝を申しあげます。

2012 年 師走 細かな雪が降りしきる初冬の札幌にて
野呂浩史