Fighting for mental health の日本語版が出版されることを、二つの大きな理由で、私はとてもうれしく思う。一つは日本におけるメンタルヘルス・プログラムの発展に役立つ可能性があるまさにその時期に出版されるからであり、もう一つは日本若手精神科医の会のメンバーが翻訳を手掛けてくれたことである。
 日本は、おそらく他の多くの先進国以上に、メンタルヘルス上の問題の件数や深刻度が急激に増加し、それらに取り組まねばならない危機に直面している。メンタルヘルスを危険にさらす要因は以前にもまして強大化している。職場における深刻な物理的および精神的状況、大きなストレスがいたるところに存在している。子どもの養育や病人の介護が悲惨な状況を生み出してしまう多数の機能不全家族が急激に増加している。失業率は悪化し、それによる被害を受ける人々の数も増えている。急激な高齢化を伴う社会の変化によって、平均余命の延長に伴って生じると予想されるアルツハイマー病の増加や慢性の非伝染性疾患としばしば合併する精神疾患の増加の双方のため、新たなメンタルヘルスの課題が出現してきている。古くから続く社会構造が崩壊したが、代替となる明確で一般的に容易に受け入れられる規範(パラダイム)がいまだ存在していない。日本のメンタルヘルス事業は過去数百年の時を経て発展しつつはあるが、同時に早急な改革を迫られるほどの欠陥も持ち合わせている。しかし、日本は実行力と決断力を持ってメンタルヘルスの課題に取り組むと私は確信しているし、そのプロセスの中で、この本に記した示唆が役立つよう希望している。
 この翻訳を歓迎するもう一つの理由は、日本各地の有能な若手の集団で構成される日本若手精神科医の会(Japan Young Psychiatrists, Organization : JYPO)の翻訳により出版に至ったからである。年に一回開催されるCourse for Academic Development of Psychiatrists(CADP)という講習会への参加は私にとって大きな喜びであり、彼らの業績や課題をこなす仕事ぶりに目をみはり、元気づけられ、幸せな気持ちとなり、笑顔をもらってきた。彼らは非常に学習熱心で、他者や仲間に対して誠実であり、勇気があり、そして自分たちを向上させようといつも心がけている。彼らの組織力や独創性には目を見張るものがある。他者の感情を傷つけないよう思慮深く、そして注意深い。私は自分の知識を彼らに授けたが、自分たちの周囲の環境に対する配慮は彼らから学んだ。彼らがこの本の翻訳を引き受けてくれたことに私は大きな賛辞を贈る。そして彼らとの友情と、日本のみなさんがこの本を手に取ることができるように彼らが多大な労力を費やしてくれたことに感謝する。
 メンタルヘルスに関連する問題は、メンタルヘルスの専門家たちが解決策を見つけられるかどうかににかかっている。この点に関して日本の若手精神科医は十分その解決策を生むことができると考えている。彼らは能力があり、意欲的であり、そしてメンタルヘルスの問題を持つ人々やその家族に共感することができ、日本人のメンタルヘルスや生活の質を向上させる運動の先駆者となりうる可能性がある。私はこの点には安堵しており、他の国々も、彼ら若手精神科医が築き上げるであろうプログラムから学んでくれることを望んでいる。

ノーマン・サルトリウス