浦河べてるの家の活動が、本書ではコミュニティ支援の立場から掘り下げられている。べてるでは当事者の生活や人生が焦点であるために、地域で生活することを支援するし、地域に支援の資源が育てられているし、地域そのものもべてるの活動に支えられている。
 これまでのべてるシリーズは、当事者が中心につづられていて、われわれに驚きや感銘を与えてくれた。そのことで当事者の力や可能性に注目することとなった。ところが本書は「逆の逆」で、べてるではこれまで光の当たらなかった専門職や支援者側が、一体何をどうしてきたのかが語られる。しかも、医療関係者や福祉業務に携わる者だけでなく、社会教育や教育委員会の方々も加わる。本書の礎となった連載が続けばもっと限りなく町の人々が登場したかもしれない。
「何の資源もない」浦河だからこそこれだけの革命的な活動が生まれたのだが、だからといって専門職側が何もしなければ何も生まれなかった。いったい何をしたのだろう?本書にはその答えが記されている。その本質が伝われば、そして浦河でなくても、自分の住む地域で覚悟をもって生きることができるとすれば、浦河よりもさらに優れた活動を展開できるかもしれない。
 視点の逆転という発想はこれまでと同様に本書にも散りばめられている。徹底的に医療中心や病院中心主義に陥っているわれわれの多くは、「べてるの地域主義」に脳をひっくり返される思いだが、よく考えればこちらの方があたり前なのである。「べてるの繁栄は、地域の繁栄」と胸を張れるまでに、当事者集団も苦労してきたのであるが、本書によって専門職側がどれほどの苦労をしてきたのか想像できよう。もちろん、「苦労」や「悩み」を正当なものに位置づけ直す思考法はここでも健在である。
 また、もとより「地域に出たとたんに人がいる」わけだし、近年は「人そのものが回復にとって必要な人々」が増えているのだから、地域づくりは明らかに人づくりなのである。コミュニティ支援は人づくり支援なのだと納得できる。

日本精神障害者リハビリテーション学会会長 野中 猛