監訳者あとがき

 これまでに行われた長期経過に関する調査から,双極性障害は,再発の危険性が高いこと,病相が頻発化したり慢性化したりという難治例も少なくないこと,病相期のみならず明らかな気分症状がない間欠期においても社会生活機能が大きく障害されること,自殺完遂率が高いことなどがわかっています。したがって双極性障害の治療は,急性期だけでなく維持療法期も含めた長期的視点に立った治療選択をする必要があります。
 双極性障害の治療において,薬物療法はその根幹をなします。2000 年以降,双極性障害の薬物療法に関する大規模の無作為化比較試験がおこなわれ,さまざまな臨床知見が得られたことにより,進展がみられますが,しかし薬物療法を継続することの難しさや,薬物療法が継続できたとしても改善が十分でない方が多く存在することも指摘されています。双極性障害の心理療法は,これまであまり取り上げられることはありませんでしたが,これらの問題や課題に資することが期待され,関心が高まっています。本書でも述べられているように,心理療法は,決して薬物療法の代替となるものではありませんが,薬物療法を補完する双極性障害の治療上欠かすことのできないものと考えられます。
 本書には,現時点で双極性障害に対する有効性が確認されている心理療法である,心理教育,家族療法,認知行動療法,対人関係・社会リズム療法などの具体的な技法の解説や臨床場面での応用法などがまとめられています。双極性障害のテキスト(Manic Depressive Illness, 2000)を著したGoodwin は,著書の中でうつ病,統合失調症の治療の発展との対比の中で,双極性障害をネグレクトされた疾患と呼んでいます。わが国の双極性障害の治療において,薬物療法はこの10 数年間にいくつかの進展がみられていますが,心理療法は残念ながら現時点ではネグレクトされた治療といえます。双極性障害の臨床において,適切な薬物療法にあわせて,エビデンスに基づく心理療法が日常的に実践され,多くの双極性障害で苦しむ人々が救われる時代がくることが望んでいます。本書が,その際の参考になれば望外の喜びです。

2011年7月 岡本泰昌