本書は,米国心理学会臨床心理学研究会の企画によるものであり,エビデンス・ベイスト心理療法シリーズの第7巻目にあたります。D. ウェディング博士を筆頭とする本シリーズの5名の編集者たちは,長年に亘り臨床研究と実践の高度な橋渡しを行うことに顕著な貢献をしてきた臨床心理学者です。本書の著者であるリッケル博士(A. U. Rickel)とブラウン博士(R. T. Brown)は,主要な文献を首尾よくコンパクトに展望し,注意欠如・多動性障害(ADHD)に対するエビデンス・ベイスト介入法の堅実な臨床的,学術的背景を示したうえで,ADHDに関する研究の知と実践の技を明らかにしています。本書には,子どもは勿論のこと,特に成人のADHDについてこれまで認知されずに困っていた人たちの例がたくさん出ています。大学に入学してからADHDであると診断を受けた例や,職場で仕事が変わったために不適応反応を起こしている上級職員の症例スケッチの検討も含まれています。単なる技法の適用ではなく,個人の能力や生活状況を十分に考慮したうえでアセスメントを行い,治療を進めていくことの効用が随所に読み取れます。
 本書の翻訳は,京都教育大学の佐藤美幸氏にお願いしました。佐藤先生は,アメリカ留学から帰国後,関西学院大学に1年間受託研究員として滞在されましたが,先生には私どもの研究室で大学院生や研究員とさまざまな臨床研究を検討する傍ら,本書に分かり易い訳を着実につけていただきました。
 訳語に関して,2013年には米国精神医学会によりDSM-5が公開され,2014年には日本語訳が出版されました。日本精神神経学会により「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」も作成されています。例えば,「注意欠如・多動性障害」は「注意欠如・多動症」とも訳されます。本書の翻訳にあたっては,本シリーズがDSM-IV-TRの診断基準に基づいていること,およびシリーズの翻訳に一貫性を持たせることに留意し,DSMに由来する障害名などは元のDSM-IV-TRの日本語訳に統一しています。
 欧米では1970年代後半より臨床実践ガイドの開発研究が始まり,2000年代に入ると日本でも多くの臨床実践ガイドを手軽に入手することができるようになりました。本書によりADHDについての理解がより進み,エビデンス・ベイスト心理療法が普及することを期待しています。
 エビデンス・ベイスト心理療法シリーズの監修者である貝谷久宣先生,久保木富房先生,丹野義彦先生に感謝申し上げます。また,出版にあたって多大のお世話になりました金剛出版の弓手正樹氏をはじめ出版部の方々にも感謝申し上げます。

2014年7月
松見淳子