本書によれば,全世界にはおよそ20 億人の飲酒人口がおり,そのうちの7,630万人(3.8%)が「アルコール使用障害」と診断され,問題飲酒と関連した社会的費用は世界中で相当な額にのぼるということです。
 一方,わが国では約6,000 万人の飲酒人口がいると推定されており,そのうちアルコール依存症が81 万人,アルコールの有害使用すなわち大量飲酒もしくは問題飲酒人口が214 万人(ともに平成16 年度厚生労働科学研究「成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究」より)いるといわれ,国民医療費の7%近くが飲酒に関連したものであると推定されるほど,アルコール関連問題は大きな社会問題となっています。
 アルコールという薬物がもたらす悪影響は,心身にさまざまな障害を来し,さらには,家庭や職場における心理的・社会的な「アルコール関連問題」を抱えることになります。例えば,配偶者のアルコール乱用・依存,子どもの不登校・非行など,家族のアルコール関連問題も深刻です。さらには飲酒に関連した事故による被害,離婚や失職など,影響は地域社会のアルコール関連問題にまで及んでいます。
 このようなアルコール関連問題の広がりに対して,さまざまな領域からの専門家および非専門家によるアプローチが求められ,必然的に治療的アプローチも心理・精神療法のみならず薬物療法や社会福祉資源の活用・サポートといった多次元にわたって考慮される必要があります。
 本書は,Syracuse 大学の心理学教授であるStepen A. Maisto 先生らによって執筆されたアルコール使用障害に関する実践的なテキストです。アルコール使用障害を診る機会のある臨床医家にとって進歩的かつ有用な介入方法が数多く紹介されています。
 まずはアルコール使用障害についての分類や定義といった概論から始まり,ついで理論とモデル,さらに診断,そして治療へとテーマが展開され,それぞれがエビデンスに基づいた内容となっています。そして,すべての臨床医家にとって“痒いところに手が届く”ようなコンテンツが実に丁寧にわかりやすく解説されています。例えば,「患者の紹介について」という項目からは,職種だけでなく臨床経験も含めて,いかに本書が幅広い臨床医家を対象としているかが伺えます。また,具体的な患者とのやりとりを記した「臨床スケッチ」や,すぐに臨床現場で使用できる10 種類の質問紙や記録表などの巻末付録も魅力となっています。
 翻訳は,京都府立医科大学大学院医学研究科精神機能病態学の医師の他に,和楽会なごやメンタルクリニック心理士の正木美奈先生にご協力いただきました。また,多大なるご支援をいただいた金剛出版の弓手正樹氏をはじめとする出版部の方々にも,この場を借りて厚謝いたします。
 最後に,読者による本書の実践を通じて,わが国におけるアルコール使用障害の患者やそのご家族が一人でも多く救われることになればまさに望外の喜びです。

2013 年3月12 日
福居顯二