エビデンス・ベイスト心理臨床シリーズ7 アルコール使用障害』

スティーヴン・A・メイスト,ジェラード・J・コナーズ,ロンダ・L・ディアリング著
貝谷久宣,久保木富房,丹野義彦監修/福居顯二,土田英人監訳
B5判/112p/定価(2,400円+税)/2013年4月刊

評者 松下幸生(独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター)


「依存症に限らず飲酒の問題に関わるすべての職種に好適な実践的なテキスト」

 アルコール使用障害とはアルコール依存症とアルコール乱用の総称であり,このテキストはアルコール使用障害の診断,評価,治療について,プライマリケアで遭遇する依存症ではない問題飲酒者から専門施設で診療する依存症までさまざまな症例に対応できるように紹介している。
 まずアルコール使用障害について医学的に解説した後,アルコール使用障害のモデルについて説明している。かつてアルコール使用障害を単一の因子で説明するモデルが提唱されてきたが,臨床的にはしっくりとこなかった。一方,20世紀後半からアルコール使用障害は多くの因子が関与する異質性の高い疾患であると考えられるようになり,生物−心理−社会(biopsychosocial)モデルが提唱された。多くの因子が関与すると考えると臨床で遭遇するさまざまな事象が説明可能となるが,このテキストではこのモデルをわかりやすく解説
している。
 次いで診断や治療に必要な収集すべき情報について具体的に紹介している。飲酒に関して量や頻度について詳しく聴取することに加えて身体,対人関係,内的要因,衝動制御,社会的責任といったさまざまな領域の問題を拾い上げることは上述のモデルに沿ったものである。また,「簡易版飲酒問題リスト」を紹介してさまざまな領域の問題を拾い上げる具体的な方法を紹介している。さらに,変化の準備性,自己効力感,コーピングスキル,飲酒のリスク状況など介入していく上で必要になるいろいろな情報についても具体的に収集する方
法を紹介している。
 治療については,まず,依存症ではない乱用レベルが適応となるブリーフインターベンションについて具体的に紹介しており,プライマリケアなどの非専門施設での使用に役立ちそうである。次いで動機づけ面接法,認知行動的アプローチの紹介と続く。動機づけ面接法はアルコール使用障害のレベルに関係なく,行動を変えることへの動機づけのための面接法であり,さまざまな領域で応用が可能である。また,アルコール使用障害の本人とそのパートナーといった二者間の関係改善を図ることを目的として認知行動療法の原則に基づくカップル行動療法を紹介している。この治療法は国内ではまだ一般的とは言えないが,アルコール問題は家族を巻き込んで傷つけるという特徴があり,今後の診療に役立ちそうである。
 本テキストの全体的な特徴として,コンパクトであり,ツールと資料が豊富に掲載されていて実践的なことがあげられる。また,臨床スケッチや臨床のツボでは具体的な事柄がわかりやすく書かれており,断酒ではなく飲酒をコントロールすることを目標とする節酒の取り扱いについても具体的に示されていて,これからアルコール使用障害を学ぼうとする人にも,既に経験されている人にもわかりやすく解説されていることから,多くの職種の方に一読の価値があるテキストだと思う。

原書 Stephen AM, Gerard JC, Ronda LD:Alcohol Use Disorders.