序文

 社交不安障害(SAD:社会恐怖とも呼ばれている)は,もっとも一般的な心理的障害の一つである。そしてそれは,治療されずに見過ごされ,その人の人生に大きな困難を与え,大きな社会的コストを生じさせる。幸運にも,SADに関して有効な薬物療法と心理的治療が存在する。本書は,実証的知見に支持されたSADの心理的治療,すなわち認知行動療法(CBT)の構成要素を紹介する。CBTには,エクスポージャー技法,認知的技法,そしてソーシャルスキルトレーニングがあり,それらすべての構成要素について本書では詳しく示されている。本書は,心理士,精神科医,ソーシャルワーカー,家族療法家,その他の精神保健専門家およびその研修者など,日々の実践の中でSADの人に相対するさまざまな保健・医療の専門家を想定して書かれている。
 本書は,六つの章に分かれている。最初の二つの章は,SADの理論的,記述的概観を示すようにデザインされている。第1章では,発症率,併存疾患,鑑別診断などの話題が概観される。SADは,他の心理的障害と重複する特徴を有しており,明確な診断象が治療のためには必要である。我々は,SADをアセスメントし,診断する際に,鑑別すべき疾患としてもっとも一般的なものを概説する。第2章では,認知行動モデルや遺伝および発達理論などといった,SADの形成と維持に関わる理論的モデルと研究について概観する。第3章では,SADの人を診る際に考慮すべきアセスメントの主要な領域について概観する。SADの診断を確定するのに十分とはいえないが,治療計画を立案するために,症状や回避などの重要な領域をアセスメントする必要がある。第4章では,SADへのCBT技法が紹介される。方略の実際が実践家のために概観され,それら方略の実証的知見がまとめられている。臨床的な説明は本書の随所にあるが,第5章では,二つの事例に関する治療の開始から終結までの臨床描写が示されている。さらに,第6章では興味をもった人へのさらに学ぶための推薦図書が示され,付録として有用なシートが掲載されている。
SADへの認知行動的治療の実証的知見による支持は促進されている。しかし,すべての実践家がこの治療法のトレーニングやスーパービジョンを受けているわけではない。我々は,本書が実証的知見に支えられた治療法と日々の実践との隔たりを埋めていく助けになることを期待する。理想的にいえば,本書のような本が,社会不安のような不安関連問題への認知行動的技法を学ぶツールとして,他の書籍ともに教育的研修会や教育課程,症例検討,同僚へのコンサルテーション,そしてスーパービジョンの機会などに活用されることを望む。
 われわれの理解では,SADの輪郭と治療は,アーロン・ベック(Aaron T. Beck),デボラ・バイデル(Deorah Beidel),デビッド・クラーク(David M. Clark),エドナ・フォア(Edna Foa),リチャード・ハイムバーグ(Richard Heimberg),ロン・ラペー(Ron Rapee),サムエル・ターナー(Samuel Turner),エドリアン・ウエルズ(Adrian Wells)をはじめ,多くのエキスパートたちの功績の影響を受けている。我々の臨床例や経験は,主にオンタリオにあるSt. Joseph’s Healthcare in Hamilton内のAnxiety Treatment and Research Center(ATRC)の患者への仕事を集約したものである。
 CBT技法の遂行を通して不安症状の管理を学び,人生を取り戻した方たちを診ることができたことはこの上ない喜びである。また,SADに対する臨床的,理論的知識の向上の助けとなる我々の臨床や研究の取り組みすべてをサポートし,協力してくれたATRCのスタッフにも感謝申し上げたい。
 また,心理的,精神医学的,および身体的状態への実証的知見に支持された治療法を扱った,タイムリーでかつ重要性の高いこのシリーズへの参加をお誘いいただいたダニー・ウェディング博士(Danny Wedding),ならびにHogrefe and Huber Publishersのロバート・ディンブレビー(Robert Dimbleby)に心からお礼を申し上げたい。本書作成に当たり,柔軟に対応し,根気強くご指導いただいたこと感謝申し上げたい。最後に,いつも励まし,支えてくれた家族に感謝したい。

Martin M. Antony,PhD
Toronto, ON, Canada

Karen Rowa, PhD
Hamilton, ON, Canada