監訳者あとがき

 社交不安障害は「無視されてきた不安障害」ともいわれ,生涯有病率が比較的高い疾患であるにもかかわらず,正しく診断されず,適切な医療および心理社会的支援につながらないことが多いといわれている。一方,患者自身が経験する苦悩は,社会生活の広範にわたり,学校,職場等での適応困難や,友人関係や結婚などの人生に関わるような個人的問題において持続的でかつ長期的な不全感が生じる。
 社交不安障害への治療は薬物療法とならんで認知行動療法が有効であることが多くの研究で示されているが,わが国においては,社交不安障害を主たる問題としての精神科等を受診する率が高くないことに加え,認知行動療法を実施できる施設がまだまだ少ないのが現状である。
 また,社交不安障害の認知行動療法に関するマニュアルやテキストについても,うつ病などの主要な精神疾患に比べてれば,相対的に少ないのが現状であり,社交不安障害の認知行動療法を系統的にかつ簡便に学べる良書を求める現場のニーズは高かったといえるだろう。
 このような現場のニーズに応えるべく発刊する本書の特徴を一口でいうと,「凝縮」である。すなわち,社交不安障害の診断のポイントと病態の特徴,アセスメントツールとその評価方法,治療(認知行動療法プログラム)の構成要素と治療法の決定に関わる諸要因の影響性,症例の紹介など,必要とされる主要な情報が百余頁のなかにコンパクトに解説されている。また,セルフモニタリングシートや評価ツールの現物も付録として添付されている点も実用的である。さらに,監訳者として特に強調したい点は,技法の解説においてトラブルシューティングとして活用できる治療経過に生じる諸々の問題への対応策が随所に紹介されていることである。これがあることで,単なる治療マニュアルではなく,実践的な手引書としての有用性が向上しているといえるであろう。
 なお,このたびの翻訳にあたっては社交不安障害を専門として研究や臨床を現在進行形で精力的に行っている新進気鋭の4名の方々に共訳者としてご協力いただいた。訳語の選択・決定においては,彼らの日頃の精力的な活動を背景として得た最新の知見が随所に反映されているという点も監訳者として申し添えたい点である。
 本書が,社交不安障害の支援に携わる方々への実践的なテキストとして有効に活用されることを期待したい。また,本書の翻訳にあたり,さまざまな形でご指導いただいた監修者の貝谷久宣先生,久保木富房先生,丹野義彦先生に感謝申し上げたい。また,出版にあたって多大なるご支援をいただいた金剛出版の弓手正樹氏をはじめ出版部の方々にも心より感謝申し上げます。

2011年3月22日 鈴木伸一