序文

 本書は,神経性食思不振症(Anorexia Nervosa:AN),神経性過食症(Bulimia Nervosa:BN),特定不能の摂食障害(Eating Disorder Not Otherwise Specified:EDNOS),過食性障害(Binge Eating Disorder:BED)というよく知られた摂食障害について記述している。摂食障害,特にAN(すべての精神障害のなかで致死率が最も高い)の重篤性にもかかわらず,未だ大部分の患者に適用できる臨床的に有効な治療法は,開発されていない。それでも毎日,病院の診察室や診療所など摂食障害に罹患した患者が病気の改善を求めて治療者を頼ってくる。ANの自我親和性にもかかわらず,患者は低下し続ける生活の質に悩んでいる。摂食障害治療を専門とする臨床家でさえ,重篤な患者を治療に導こうとしても上手くいかず絶望的になる。
 この点において本書は役に立つだろう。本書は既存の知識の他,筆者達の過去30年間にわたる豊富な臨床経験をもとに書かれている。治療法の基本的理解とある程度の臨床的トレーニングを担っている。本書は,摂食障害の専門家だけでなく,臨床心理士,精神科医,一般科医,栄養師,ソーシャルワーカー,看護師,その他の関連するメンタルヘルス関係者にも興味を持ってもらえるだろう。
 本書は5章に分かれている。第1章では,種々の摂食障害(AN, BN, EDNOS, BED)について説明し,その定義と診断の仕方について明確に述べる。それから経験的に支持されている診断法および評価法を概説する。第2章では,摂食障害の発症と維持についての理論的モデルと治療におけるその意味づけについて明らかにする。第3章では,初回面接の実施を容易にし,適切な医学的評価と検査を確実にする実践上の戦略を述べている。第4章では,臨床家が使用できる心理的技法と介入についてできるだけわかりやすく示すために,セッションでの対話や教訓的な覚書を用いて詳しい実践的な説明をしている。ここでは,治療における障壁,特にあまり動機づけされていない,非協力的な患者に特別な注意を払っている。第5章には,摂食障害の複雑さと治療の障壁を示す一連の症例を盛り込んだ。付録には配布資料と治療セッションで用いる追加情報を掲載した。
 摂食障害は,臨床家にとって興味をそそる挑戦である。この障害は多様なため,1つの治療法をあらゆる症例に適用できない。その結果,本書は「事細かな解説書」やマニュアルとしてでなく,むしろ臨床家が各患者の必要性に応じて治療を上手く合わせる実践的ガイドとして書かれている。また,抵抗する患者に直面した臨床家に特に役立つような戦略と臨床上の覚書も提供している。患者と分かち合える多くの教訓的な情報と,八方手を尽くしてだめだった時に救いになるようなユーモアも,本書に盛り込んでいる。