本書を薦める

 私は二〇〇二年四月から二〇一二年三月までの一〇年間、自衛隊の精神科医官として勤務した。そのほとんどの期間を防衛医科大学校に所属していたのだが、最初の四カ月間は自衛隊中央病院で働いた。いわば、自衛隊の作法を身に付けるようにとの期間であった。
 当時、本書の著者である藤原俊通先生と出会った。藤原先生はわが国の防衛を担う指導層の養成機関である防衛大学校を卒業後、戦車部隊の小隊長、中隊長を歴任した後、筑波大学社会人大学院において修士号を取得し、臨床心理士の資格を得た。それ以来、日常の精神科臨床、アフターケア活動(自殺が起きた後の遺された人々へのケア)、復職支援、メンタルヘルス教育、災害や海外派遣隊員に対するメンタルヘルス活動といった幅広い分野で、私は藤原先生と一緒に仕事をする機会があった。
 何よりもありがたかったのは、藤原先生が自衛隊という組織に精通していた点であった。たとえば、自衛隊の部隊がどのような構成になっているのか、どこに連絡をすれば的確な情報を得られるのか、自衛隊のカルチャーとはどのようなものかといった点について熟知していた。その意味で、藤原先生が私たち精神科医と自衛隊との間で実にみごとな橋渡し役をしてくださった。
 本書は、自衛隊のカウンセラーとしての役割を実体験に基づいて著されたものである。「つながり」をキーワードに、個としてのクライエントと、集団としての組織に働きかけていく。
 カウンセラーの機能として、@カウンセリング(クライエントの心情を傾聴する)、Aアセスメント(支援に必要な情報の評価)、Bコーディネーション(複数の支援者間の調整)、Cコンサルテーション(他のサポートシステムへの専門的助言)が本書の中でも挙げられているが、組織の中でカウンセラーが果たすべき役割が実体験を元に如実にまとめられている。
 現在では、陸海空の各自衛隊に勤務する臨床心理士は百名を超えるほどになったが、その指導的立場にある藤原先生が著した本書は彼らにとっても大きな励みにもなることだろう。組織のメンタルヘルス論として傑出した本書を多くの方々にお薦めしたい。一般の産業精神保健の分野で活動されている人々にとっても参考になる点が多い本であるはずである。

二〇一三年二月
筑波大学 災害精神支援学 教授
高橋 祥友