あとがき

 本書を執筆するに際して筆者には一つの大きな迷いがあった。それは筆者にカウンセラーの専門性を語るだけの資格があるかということであった。すでに述べたように筆者は最初からカウンセラーという職業を志したわけではなく、それは三十歳を過ぎてからの遅いスタートであった。遅れを取り戻すために熱心に勉強に取り組んできたが、心のどこかでやはり引け目を感じていたのかもしれない。それでも実践の中で練り上げてきたものにはそれなりの説得力があるはずだと信じて、思いきって執筆を決意した。
 しかし実際に本書を書き進めていくなかで、あらためて自分のキャリアを振り返ることになった。そして自分には防衛省という組織の中で働き、多くの人を指揮し、あるいは観察してきたという経験があり、それが現在のカウンセラーとしてのキャリアの土台になっていることに気づくことができた。今ここにあるのは筆者の個性の上に構築された筆者独自の臨床であると言える。その意味で本書の冒頭でも述べたように、本書の内容は筆者の独りよがりに過ぎないという批判を受けるかもしれない。
 しかしながらカウンセラーという職業や資格制度が確立していないわが国においては、筆者と同じように自らの専門性について不安を抱いている人が多いのではないかと言う思いもあった。もしそうであれば筆者の体験とそこに構築された筆者の臨床を、それぞれのカウンセラーが自らの専門性について深く考えるきっかけにしてもらいたいと思っている。そして筆者自身は自分の臨床が独善に陥る危険性を秘めていることを常に意識しながらこれからの職務に向き合っていきたいと考えている。われわれが追求する専門性には一〇〇%の完成は存在しない。
 存在しないゴールなど意識せず、目の前の一歩、今の自分にできることを「今、ここから」積み重ねていくことが大切だと思う。日々クライエントに向き合い、クライエントに伝える言葉と、自分自身の生き方ができるだけ一致しているように努めたいと考えている。
 本書を書き進める中で、つながりで支えることの重要性が徐々に高まっていくにしたがって、社会や組織、そして家族などからは集団としてのつながりやまとまりが失われつつあるということに気づかされた。このような社会の変化の中で、われわれカウンセラーに求められているものは、目の前のクライエントとのつながりを大切にすること、そしてクライエントやわれわれ自身が所属する、組織や社会そのものに働きかけていくことであろう。
 それは単に問題を抱えて苦しむクライエントを支援するための努力ではなく、われわれ自身が支えられている環境そのものへの働きかけなのである。
 そして本書の執筆を通してあらためて感じたのは、自分自身が多くの師や仲間、そしてクライエントとのつながりによって支えられてきたという事実であった。これまでに出会った多くの方々とのつながりが、筆者の中に数多くの貴重な作品を残してくれた。すべてのつながりに心から感謝申し上げます。そして筆者の分断されたキャリアが再びつながるまでの長い時間を、温かく見守り支えてくれた妻と娘に心をこめてありがとうと言いたい。
 終わりに本書の出版にご尽力くださった筑波大学の高橋祥友先生、そして金剛出版社長の立石正信氏に心から深謝申し上げます。

二〇一三年二月 藤原 俊通