『PTSD 治療ガイドライン 第2版』

エドナ・B・フォア,テレンス・M・キーン,マシュー・J・フリードマン,ジュディス・A・コーエン著/飛鳥井望監訳
B5判/520p/定価(7,400円+税)/2013年5月刊

評者 前田正治(福島県立医科大学医学部災害こころの医学講座)


 本書は,2000年に国際トラウマティック・ストレス学会(ISTSS)によって刊行されたガイドラインの改訂版(第2版)である。71名の執筆者が過去文献を総括し,各種治療の要約および推奨を行っている。第1版ではいくつかの部分は翻訳されなかったが,今回の日本語翻訳版は全体を網羅しており結果として500ページを超す大部となっている。現在刊行されているPTSD治療に関する数多くのガイドラインの中でも,決定版と言えるほど中身の濃い書となった。
 第1版から約10年が経過しており,その間の変化が各章に大変よく反映されており,初版と見比べてみると,これほど多くの新たな知見が集まったのだとあらためて驚かされる。とくに第2版では,子ども領域に関する記述が大幅に増えており,トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)をその嚆矢として,第1版ではあまり触れられなかった子ども領域における治療法の近年の目覚ましい発展がよくわかる。
 さて,本書の構成自体は第1版と同様,2部構成となっており,第1部が文献レビューと作業部会の公式見解,第2部が治療推奨となっている。狭義のガイドラインといってもよい第2部だけ読んでも理解できる構成になってはいるが,なんといっても白眉は各治療法を丁寧に解説しレビューした第1部である。他のガイドラインと同様,無作為比較試験(RCT)によって結果が得られた治療法をもっともエビデンスレベルの高いものとして推奨している。ただ本書の特徴は,EBMの狭き門をくぐれていない,あるいはくぐろうとしている治療法に関しても積極的に,丁寧にコメントしていることであり,「エビデンスがないことを否定的エビデンス(たとえば無効性)と混同してはならない(461 頁)」という姿勢が随所に反映されていることである。そして,臨床のリアル・ワールドを踏まえた,そして文化的差異を念頭に置いた,ISTSSらしい実践的な見解がちりばめられている。
 多少内容に関して触れておくと,成人に関する心理療法としては長期間曝露法(PE)がもっともエビデンスが集積しているものとして推奨されているのは第1版同様である。一方,認知処理技法(CPT)のようなより認知修正技法に焦点を当てたものに対しても一層評価が高まっている。興味深いのは,第1版とは違い眼球運動による脱感作と再処理技法(EMDR)に対して,より踏み込んだポジティブな評価をしていることである。その他,力動的治療,リハビリテーション,集団療法,催眠,家族療法,芸術療法など検討されている治療法は幅広い。それらの多くはRCTによるエビデンス不足のため,積極的な推奨に至っているわけではないが,それぞれの特徴や見込まれる効果・限界についてもしっかりと記述してある。
 本書から大幅に増えた子ども治療に関しては,上述のTF-CBTに対する評価が最も高いが,その他着目すべき点として,学校ベースでの介入に関して1章を割いていることである。米国では,災害やテロなどが学校を襲うことはもはや稀ではなくなった。それは本邦も同様であり,本章から学ぶこともまた多いだろう。ちなみに本ガイドラインでは薬物療法は有効であるものの,CBTに比べると有効性に劣ると明記されている。これは英国国立医療技術評価機構(NICE)同様の評価であるが,一方でCBTの大きな問題点として専門家の不足を挙げており,我が国と同様の問題を米国も抱えていることがわかる。また本書では,PTSD患者に多い併存障害の治療,各治療法の統合や組み合わせについても詳述しておりいずれも示唆に富む。
 さて一方で,本書では法的,司法的問題に触れているのはたったの5行である。我が国では,これらの問題はPTSD治療を進めていく上では避けては通れない問題であるし,治療への影響も大きい。これらの事情は米国でも同様であろうから,もう少し記述がほしかった。ともあれ,本書はPTSD治療ガイドラインの決定版として,治療者が疑問を感じたり,行き詰まったりした時に手に取って学ぶことができる座右の書として長く重宝されるであろう。

原書 Foa EB, Keane TM, Friedman M J, Cohen JA : Effective Treatment for PTSD Second Edition : Practice Guidelines from the International Society for Traumatic Stress Studies.