『PTSD治療ガイドライン 第2版』

エドナ・B・フォア,テレンス・M・キーン,マシュー・J・フリードマン,ジュディス・A・コーエン著/飛鳥井望監訳
B5判/520p/定価(7,400円+税)/2013年5月刊

評者 伊藤正哉(国立精神・神経医療研究センター)


 本書は,国際トラウマティック・ストレス学会の特別作業班が中心となって作成した,外傷後ストレス障害(PTSD)の治療ガイドライン第2 版の邦訳である。原書は2009年に英語で出版されており,それまでの臨床試験や精神医学,臨床心理学および近縁分野の研究成果が「治療」という観点からまとめられた実践的な一冊である。共同編集者であるEdna B. Foa, Terence M. Keane, Matthew J. Friedman,そしてJudith A.CohenはいずれもPTSDの理解や治療に関わる世界的権威である。第2版である本書では,新たに共同編集者にJudith A. Cohen を迎え,初版では1章しか割かれていなかった子どものトラウマについて,新たに7章が割かれている点に特徴がある。心理学者,精神科医,ソーシャルワーカーなどさまざまな領域の専門家によって執筆されていることからもわかる通り,本書は幅広い職種・専門家にとって役立つものである。
 本書は5部から構成されており,前半は第Ⅰ部「PTSDの診断と評価」,第Ⅱ部「早期介入:急性ストレス障害の治療と慢性PTSDの予防」,第Ⅲ部「慢性PTSDの治療」となっている。これらは全21章のポジションペーパーとなっており,第Ⅳ部「治療ガイドライン」の科学的根拠を示している。ガイドラインは18の領域に分かれており,成人・子どもに対する,急性期・慢性期の,心理社会的ケア・精神療法・薬物療法のそれぞれの介入がまとめられている。そのなかには,催眠,成人の夫婦・家族療法,そしてPTSDと合併障害の治療といった広範囲な領域を含めている。科学的エビデンスの水準の評価としては,米国健康政策庁のコードシステムが採用されており明解である。
 ガイドラインはあくまでも“指針”を示すものであり,個々の臨床現場や患者の状況,治療者側の資源に応じて適用されるものである。そのため,指針通りの治療を無批判かつ画一的に臨床に持ち込んだところで,治療の水準が高まる訳ではない。本書はこれまで世界中で実施され蓄積されてきたPTSD研究の集大成を示している。つまり,臨床家が最低限知っていなければならない基礎資料として位置づけられる。こうした知と,自らの実践をともに批判的に検討し,個々の症例や状況に合わせながら,日々の臨床を工夫する。本書はこうした営みを助けてくれるものである。本書の第X部「結論」では,治療ガイドラインが総括されたうえで,それを臨床現場でいかに適用するかについて思慮深く議論されている。我が国のPTSD治療の向上や基礎研究の発展という点において,本書が質の高い正確な日本語として翻訳された意義はきわめて大きい。本書を作成した国際トラウマティック・ストレス学会,そして監訳者・翻訳者の強い熱意と矜持が窺える。

原書 Foa EB, Keane TM, Friedman M J, Cohen JA : Effective Treatment for PTSD Second Edition : Practice Guidelines from the International Society for Traumatic Stress Studies.