まえがき

 私は,教育心理学者として,教師と共に広く仕事をしてきました。さらに,私は,現在11 歳と14 歳の二人の子どもの母親でもあります。時には,これら二つの役割がほとんど重ならないように思えるときがあります。すべての親と同じように,私も子どもたちの学業成績はもちろんのこと,社会性の発達や情緒の発達をサポートすることを気にかけています。このことは,自然と教師との長年にわたる多くの会話を含むものです。その会話は,理想的には,常に双方のやりとりが行われるべきです。しかしながら,話し合おうとする私の試みに対して,私の子どもの教師はがっかりするほど協働作業が進まないような対応をとるので,私は再度挑戦することにも二の足を踏んでしまうことになりました。
 たとえば,もう何年も前のことですが,元気一杯で自信に満ち溢れていた私の娘が,学校から帰って,「私はクラスで一番間抜けな子なの。私以外はみんな字が読める」と言いました。彼女の読みの学習が難しいのは,学校の楽しさやクラスに参加しようとする気持ちが影響しているのですが,それだけではなく,彼女の自尊心にも影響していることがわかりました。この問題について教師と話し合うことが重要であると私は感じました。しかし,私が面談の予約をしようと電話をかけたとき,教師から感じ取ったことは,親との面談を計画するのは負担が大きいという印象でした。それにもかかわらず,私は面談に行きました。夫と私は,娘が元気でいること,そして彼女が読みを心配しているのを止めさせたいと話しました。娘の学校への熱意に与える影響について私が抱える心配は,小さくなることはありませんでした。しかし,私は,専門家として,親と教師の協力が重要であることを知りながらも,むやみに教師の時間を取ることに罪の意識を感じ始めました。
 1 年後,娘は読みの遅れがあると診断されました。私は,教師が私の心配を軽視したことと,親として娘のニーズを代弁したり,心配事をうまく伝えられなかったりしたことに怒りをおぼえました。
 もし,翌年に私がある経験をしなかったら,この経験が教師と協働していこうとする気持ちをくじいてしまったことは疑いありません。ある日,娘の担任教師から電話がかかってきました。それは,娘がクラスの子どもが難しい状況を問題解決するのを助けてくれたというすばらしい出来事を伝える電話でした。夫と私は,笑顔一杯になりました。それから数週間後に,教師が娘の野球の試合を見に来ました。(後からわかったことですが,この教師はクラスの子ども全員の大切な行事に足を運んでくれていたのです。)その結果,娘は学校で元気な自分を取り戻し,私たちはこの教師のために何かをしたいと思うようになりました。夫と私は,教師と一緒にいるとき,誰か聞く人がいれば教師を賞賛するようにしました。教師に対するほんのちょっとの親切と気遣いで,基本的なやり方の中にあった家庭と学校のギャップを乗り越えることができたのです。

研究の背景
 私は,過去20 年間にわたって,非常に攻撃的で,衝動的で,言うことを聞かない幼児の母親を対象にした養育プログラムを評価したり,子どもの社会的,学業的コンピテンスを促進し,行動上の問題を少なくするための最も効果的な方法を理解できるように親を援助したりしてきました。私自身の研究(Webster.Stratton, 1984, 1985, 1989, 1994, 1998a; Webster.Stratton, Hollingsworth and Kolpacoff, 1989; Webster.Stratton, Kolpacoff, and Hollingsworth, 1988 )でも,他の研究者の研究でもそうなのですが,親が効果的な子どもマネジメントスキルを用いるようにトレーニングを受けると,子どもの社会性や自尊心が高まり,攻撃行動の問題が少なくなるのです。しかしながら,親が家庭で調和のとれた家庭生活を送れるようになっていても,学校での子ども同士の関係が,それに対応して改善するとは必ずしも言えません。子どもがクラスの中でいまだに挑戦的で,不注意で,妨害的で,仲間関係にかなりの困難を抱えているという声が多くの教師から聞かれます。さらに,30 名かそれ以上の子どもが在籍するクラスの中で,困難を抱える子どもに対応していくには,時間とエネルギーを使い,教師がストレスを感じると報告しています。また,教師はこうした子どもに必要な規律を教えたり,必要な社会的スキルトレーニングを提供したりする際に,その準備が十分でないと感じているのです。
 1991 年に私は幼児のための社会的スキル・問題解決・怒りマネジメント・カリキュラム(ダイナソー・カリキュラムと呼ばれている)を開発しました。このプログラムは,子どもを対象にしたのですが,一方で,親たちも毎週養育クラスに参加し,子どもの中には,放課後プログラムに参加するものもいました。子どもへのトレーニングと親に対するトレーニングを組み合わせた場合の加算効果を評価する無作為割付研究において,ダイナソー学校に参加した子どもは,このプログラムに参加しなかった子どもと比較して,仲間との相互作用において,有意に優れた問題解決スキルと向社会的行動を示しました(Webster.Stratton and Hammond,1997 )。この結果は,家庭で行動上の問題をもっていることに加えて,学校で仲間とやり取りすることが難しい子どもは,「情緒リテラシー」(Goleman, 1995 )と呼ばれる,あるいは,私が「社会的コンピテンス」と呼んでいる能力を促進するために考案されたカリキュラムから利益を得ることができると確信させるものでした。
 事実,学力はもちろんのこと,効果的な社会的スキルや問題解決を重視する教育からすべての子どもが,利益を受けることができると私には思えるのです。そこで,私は親だけでなく,教師にトレーニングをすることによる加算効果を評価する研究プログラムを開始しました。教師と親の協働作業は,子どもの個々のニーズに対して,お互いに支えあい,一緒にプランを立てる教師−親関係に根本的な変化をもたらしました。教師も親もあまりストレスを感じず,対立することもなく,互いに支えあって,子どものニーズに応えていきました。私たちのデータは,まだ予備的なものですが,そこから得られた結果が示していることは,親と教師が共に訓練プログラムに関与すると,攻撃的な子どもの行動に改善が見られるだけでなく,クラス全体が協調的になり,学習への取り組みも良くなるということでした(Webster.Stratton, 1998b)。
 過去7 年間にわたって,私たちは,小学校教師だけでなく,ヘッドスタート保育園の教師を含めて,3 歳から9 歳の子どもを担当する何百という教師にトレーニングをしてきました。これらのトレーニングのうちのいくつかは,攻撃的な子どもを援助するための特別なプログラムでしたが,そのほかに子ども全体の社会的コンピテンスを向上させるための予防的プログラムも実施してきました。本書は,これらのトレーニングの結果とそのプログラムに参加した教師によって共有されている考え方を踏まえて作られたものです。私は,子どもの社会的コンピテンスを育むためのさまざまな方法や考え方を教え,共有してくれた教師から多くの恩恵を受けました。これがなければ,本書は世に出なかったでしょう。

本書の目的
 本書は,年少の子ども(3 歳から10 歳)を担当する教師を念頭において,いくつかの目的をもって執筆されました。第一の目的は,子どもの教育的,情緒的ニーズに応える際に,教師と親が協力する方法を指し示すことでした。第1 章は,このトピックを直接扱っています。しかし,他のすべての章にも,これと関連する教材が含まれています。たとえば,第2 章,第4 章,そして第5 章では,進行中のプログラムにおいて,家庭と学校をつなぐ活動,教室への参加などへの親の関与を得ながら,また,子どもが困難な問題を克服するのを援助するための誘因プログラムの計画作成を通して,教師がどのようにして子どもとの有意義な関係を発展させることができるかについて論じています。第7 章と第8 章では,親が行う規律性育成プランの実施方法やユニークな気質をもつ子どもにもっとうまく働くやり方を教師が理解するのを援助する方法などを示しています。第9 章,第10 章,第11 章は,社会的スキル,怒りマネジメント,問題解決を学校や家庭で育てるためのカリキュラムに親が参加する方法について説明しています。
 本書の第二の目的は,子どもの社会的コンピテンスや学力を高めるために,教師が選択できるさまざまな教室マネジメント法を提案することです。子どもの情緒リテラシーは,学業リテラシーと同じくらい重要なものです。それぞれの章は,その前の章をベースとしていることを示しているのが指導ピラミッドです。本書の前の方の章は,子どものポジティブな行動を促したり,自信,自尊心,問題解決,そして学習への動機づけを高めたりする方法に焦点をあてています。これらの章では,教師−子ども−家庭の関係がうまく取れるための基本を示しています。第3 章と第6 章は,子どもに自分の行動の責任を徐々にとらせながら,学級崩壊を最小限に食い止め,対立を避け,円滑に機能する教室を作るように考案された,明示的ルール,見通しのきいた制限,再契約法,規律性構造といった先手を打つ教室マネジメント法に焦点をあてています。第7 章と第8 章は,子どもが言葉や体を使って暴力を振るった場合に必要とされるタイムアウトや特権の剥奪といった立ち入った規律性育成法についての説明です。第9 章,第10 章,第11 章では,社会的スキル,怒りマネジメント,問題解決を教えるためのカリキュラム活動,ゲーム,台本などが示されています。
 本書の第三の目的は,リスクの高い子どもに特殊な社会性及び情緒に関するニーズに対応する個別化プログラムの設定をどのようにしたらよいかについて例示することです。学習障害,多動性,衝動性,注意欠陥障害,言語と読字の遅滞,高い攻撃的行動などのような生物学的要因ないしは発達遅滞を原因として,子どもは社会性の面,学習の面に問題を抱えるリスクが高いのです。ある子どもは,大人が応答しなかったり,虐待されたりするような家庭状況の中で,また,ある子どもは,大人がストレスに圧倒されて,子どものニーズに応えられない家庭状況の中で,困難のリスクを高めていきます。教師は,クラスのすべての子どもの社会的コンピテンスを高めつつ,リスクの高い子どものための個別化された介入を教室に組み入れながらどのようにして統合させるか。その道筋を本書で明らかにしています。

早期介入の重要性
 これまでの研究が指摘しているように,子どもの攻撃性はエスカレートしていきます。このことは年齢が幼いほど顕著です(Campbell, 1990, 1991; Webster.Stratton, 1991, 1998b)。最近の研究報告によると,就学前児か小学校低学年の子どもの10%から25%が,反抗挑戦性障害か早期発生の行為問題の基準に合致します。つまり,これらの子どもは,高いレベル,もしくは臨床レベルで,攻撃,妨害,反抗,多動といった行動上の問題を示します。 これらの傾向は,これらの子どもの家族だけでなく,私たちすべてにとって気がかりなことです。なぜなら,年少児における「早期発症」の行動上の問題は,青年や成人の時期の薬物乱用,抑うつ,非行,反社会的行動,暴力を予測することがわかっているからです(Kazdin,1985; Kupersmidt and Coie, 1990; Loeber, 1990, 1991; Moffitt, 1993 )。殺人,レイプ,強盗,放火,飲酒運転,虐待などの行為は,児童期から続く慢性的な攻撃性を示す人によって,大部分が実行されるのです(Kazdin, 1995 )。したがって,年少児に生じる攻撃性が激しさを増すという問題は,私たち自身や私たちの子どもの安全性を予告する上での関心を集めるだけでなく,人種,経済状態,地域などと関係なく,社会全体にとって大きな懸念材料となるのです。素行障害は,社会にとって最もコストのかかる精神障害の一つです(Robins, 1981 )。反社会的な子どもの大部分は,生涯を通じてメンタルヘルスの機関や刑事司法制度と関わりをもち続けます。
 言い換えると,これらの子どもが放置され,行動上の問題が治療されなければ,すべての人たちが,個人的にも,経済的にも,長期にわたって償いをしないといけなくなるのです。 過去20 年にわたって,さまざまな家族介入や学校介入が子どもの行為上の問題に対処するために開発されてきました(Estrada and Pinsof, 1995 )。これらの介入を評価する研究において示唆されていることは,子どもが就学前か小学校低学年くらいの早期に介入が実施されると,慢性的なパターンへの進展を効果的に予防できるということです。事実,介入時に子どもが年少であればあるほど,家庭や学校での子どもの行動的な適応はよいとする証拠があります(Strain et al., 1982 )。したがって,素行障害への進展を予防し,攻撃性の早期サインを見せている子どもを非行の道に近づけないようにするために,早期から子どもに介入することは有効です。
 本書の第四の目的は,子どもの社会的コンピテンスと情緒的安寧の増進にもっと注目を集めるために,学校を支援することです。子どもの認知的コンピテンスが学習能力に影響を与えるのとまさに同じように,子どもの社会的コンピテンスと情緒的安寧が学習能力に影響することを教師はわかっています。本書がこうした取り組みを支えるための有効な道具となることを期待しています。
 情緒面を教えようとする教師は,ある子どもにとっては,親の精神病理や家族のストレスの影響から守ってくれる緩衝の働きをしてくれますし,親が子どもを守る役を果たせないときには,支援の手を差しのべることもできます。教師と親がパートナーとなって一緒に子どもの社会的コンピテンスを促していけるようになると,リスクのある子どもばかりでなく,すべての子どもや家族を援助することができます。 私たちが共有する目標は,子どもの学校にしっかりと関与してくれる親となること,その子たちの社会性や情緒の面からのニーズを考慮に入れることにより,しっかり学習に取り組む子どもになること,そして,親の支援を受けて,満足感をもてる教師になることです。このビジョンを広げると,われわれの目標は,楽しい家庭生活を送る家族であること,強圧的なしつけをしない親であること,そして,将来的に,幸福な結婚をして,抑うつになることがなく,離婚することがないように関係スキルをしっかりと学習する子どもをめざしています。最後には,暴力のない,思いやりにあふれた社会を作り出せるように援助することの利点を私たちみんなが手に入れることができると信じています。