『認知行動療法を活用した子どもの教室マネジメント』

ウェブスター・ストラットン著/佐藤正二,佐藤容子監訳
B5判/266p/定価(2,900円+税)/2013年5月刊

評者 高野久美子(筑波大学医学医療系災害精神支援学)


 今,教師が心理援助職に対して最も求めることはなんだろうか。評者自身の経験では,従来の個別の事例についての相談(見立て,具体的な支援方法など)に加えて学級をどう運営していくかという「集団」を対象とした相談(例:支援ニーズのある子どもの行動をきっかけにして学級全体の運営が困難になっている等)と予防的な心理教育の実践についての相談が多くなったと感じている。特に経験の浅い教師の場合,一人ひとりの子どもを見ることに精いっぱいで集団をコントロールできず途方に暮れているようなケースも少なくない。こうした現状を見聞きするにつけ,学級経営の質を上げるためには教師のセンスの有無や教師個人の「職人芸」にばかり左右されるのではなく,誰でも習得できる教師向けトレーニングが必要だと常々感じていた評者にとって,本書はまさに待望の書である。
 本書は著者の開発したIncredible Years Teacher Classroom Management(IY TCM)という教師トレーニングの実践書の全訳である。IY TCM は現在,さまざまな国で実践され効果研究もおこなわれているが,日本ではまだ聞きなれないトレーニング法である。システマチックに組み立てられた効果的な教師トレーニング法であり,今後日本でも広く周知されることが望まれる。ベテラン教員の見事な学級経営を目の当たりにすると,個人の経験値やセンスの良さという要素は厳然とした事実として存在すると感じる。しかし,それは承知の上で,経験が浅くともさまざまな技術を一定レベルまでは習得できるような体系だったトレーニングシステムを教員養成の段階から用意すべきであろう。
 本書の特徴の一つは,応用行動分析の考え方をベースに具体的でかつ実践的なプログラムやスキルが満載であるという点である。発達の特性がある子どもや行動に難しさのある子どもの指導・対応に毎日苦闘している教師にとって,知りたい技法や役に立つプログラムが次々に出てくる「ドラえもんのポケット」のような本である。しかし,その多彩な「ドラえもんの道具」だけに目を奪われて,根幹にある「教師と子どもとの関係性」や「保護者との協働」をないがしろにし,その技法やプログラムを便利な道具としてのみ使ってしまうと大やけどを負う危険もある。「保護者との関係」「子どもとの関係」が第1 章,第2 章に配されていることからもわかるように,どんなに有効な技法やプログラムでもこうした土台がしっかりと築かれていなければ有効に機能しないことを忘れないでほしい。
 心理援助職としては,「この子はどうしてそういう行動を取らざるを得なかったのだろうか」という視点が本書には乏しいことに物足りなさを覚えたが,こうした臨床心理的な視点も併せ持ちながら本書が提示する技術を活用して子どもの支援,学級運営を行う教師が育つことを願っている。

原書 Webster-Stratton C : How to Promote Children's Social and Emotional Competence.