『研修医・コメディカルのための精神疾患の薬物療法講義』

功刀 浩編
A5判/208p/定価(3,600円+税)/2013年6月刊

評者 鈴木宗幸(医療法人 恵愛会 福間病院)


 本書は研修医,コメディカルなどの初学者を対象にして書かれた精神科薬物療法の入門書である。評者の職場にも1カ月ごとにスーパーローテートの研修医が回ってくるが,彼らから「精神科の薬がわからない」との質問をよく受ける。思い起こせば評者も10年ほど前に研修医だった頃,他科ローテート中に薬のことがわからず四苦八苦した。循環器内科をローテートした時,薬のマニュアル本を読みながら抗不整脈薬の分類,薬理学的作用などを勉強したが,悲しいことに肝心の不整脈疾患のことがわかっていなかったので,勉強した知識はすべて素通りして忘れてしまった。精神科をローテートする研修医諸君も同じ落とし穴にはまる危険性があるだろう。
 本書は薬の薬理学的知識にとどまらず,その対象となる疾患の説明,治療のなかで薬物療法が非薬物療法とあわせてどのように位置づけられるのか,実地臨床での具体的な使われ方等が丁寧に書かれてあり,安直な薬の解説本とは一線を画している。「木を見て森を見ず」にならぬよう,治療全体の中で薬をどのように理解したらよいのかがわかるように工夫されている。1章:抗精神病薬,2章:抗うつ薬,3章:気分安定薬,4章:抗不安薬,5章:睡眠薬,6章:中枢刺激薬,7章:抗てんかん薬,8章:漢方薬,それぞれの章が各分野のスペシャリストにより分担執筆されており,内容が一章ずつで完結していて読みたい章から読むことができる。
 たとえば2章ではまず初めに,抗うつ薬はうつ病の治療の5本柱(@十分な休息,A環境調整,B精神療法,C生活習慣の指導,D薬物療法)のひとつに過ぎず,他の柱をおろそかにしては治療はうまくいかないと言い切っている。モノアミン仮説ですべてを説明することの限界についても触れており,薬物至上主義に偏らないバランス感覚のもとに書かれている。その上で著者の豊富な臨床経験に基づき,実際に抗うつ薬をどう使用していくのか注意すべきポイントと実際の症例を呈示しており,初学者が生きた知識を身に付けるのに役立つ。
 評者のような駆け出しの精神科医が自らの知識を深めるのにも良い本であると思う。評者はいまだベンゾジアゼピンの薬理学的作用がよく分かっていなかったが,睡眠薬の章でGABAA受容体の働き方についてわかりやすく解説しており,ようやく理解することができた。普段自分が使わない分野の薬について解説してある章も読みごたえがあり,ADHDの臨床で使用するメチルフェニデートとアトモキセチンについて,前頭前野の司る実行機能と,側坐核の司る報酬系とを対比しながら二つの薬の相違を浮かび上がらせる解説は,クリアカットでわかりやすかった。漢方薬の章においては,西洋医学とはまったく違う漢方医学の概念について読者が抵抗なく理解できるように軽妙洒脱な語り口で書かれてあり,奥深い漢方医学の世界へ興味を誘う講義であった。
 もちろん初学者が一読しただけでは理解が難しそうな個所もあるが,評者のように研修医を実地で指導する立場の人間が,本書をテキストとして使いながら精神科の薬について教えるやり方も効果的であると思う。精神科臨床研修現場の書棚に,是非備えておきたい一冊である。