『家族療法テキストブック』

日本家族研究・家族療法学会編
B5判/368p/定価(5,600円+税)/2013年6月刊

評者 平岡篤武(静岡県立吉原林間学園)


 本書は日本家族研究・家族療法学会(以下,学会)元会長である楢林理一郎氏を中心として編集された,我が国における家族療法実践家による初の本格的教科書である。家族療法という用語については,本書の序で,「単に一つの理論や技法を示すというより,多様な家族援助の理論や実践の考え方の全体を覆う『傘』のような幅広い上位概念」で,「個人や家族の抱えるさまざまな心理的・行動的な困難や問題を家族という文脈の中で理解し,解決に向けた援助を行っていこうとする対人援助方法論の総称」と簡潔にまとめられており,近年見られるさまざまな家族療法の方法論や技法を統合しようとする流れとも繋がっている。
 全体の構成は以下の通りである。第1部は家族療法の理論編として,第1章「家族療法の歴史」(ここでは,家族療法が欧米で統合失調症の家族研究から始まり,システム論や社会構成主義の影響を受け発展してきた歴史がコンパクトにまとめられ,日本における発展についても社会状況,学会の動向を重ねあわせながら概観することができる),第2章「家族療法の基礎概念」(家族を理解,支援するうえで重要な理論や視点について記述されており,スピリチュアリティも取り上げられている),第3章「家族療法の代表的モデル」(家族療法創始期から発展してきたモデルである第1世代,社会構成主義の認識論が加わった第2世代,第3世代については我が国における独自の発展を踏まえた視点から,家族心理教育,メディカル・ファミリーモデル,看護モデルであるカルガリーモデル,統合的家族療法)について幅広くポイントが詳述されている。
 第2部は臨床編で,読者の学習や実践への利便が意識され,「欧米の教科書には見られない」臨床領域,臨床テーマ別の記述がなされているところが特色である。第1章「領域ごとの臨床実践」には精神科医療保健,一般身体科,教育,児童福祉,ソーシャルワーク,司法・矯正・更生保護,産業メンタルヘルスが選ばれ,第2章「現代的な臨床テーマ」(児童・思春期,青年期・成人期,老年期,社会と家族)には,発達障害,ひきこもり,うつ病,高齢,認知症,自死,災害のテーマが含まれている。
 第3部は教育,研究,倫理を主題とし,教育・研修・スーパーヴィジョン,研究,倫理と臨床というテーマを扱っている。ここには,これまでの学会による『家族療法リソースブック―総説と文献105』(2003年,金剛出版),『家族療法のスーパーヴィジョン』(2011年,金剛出版)や,映像教材の『実録・家族療法』(2009年),『説き明かし・私の家族面接』(2010年)(いずれも中島映像教材出版)の出版や,認定スーパーヴァイザー制度創設に見られる,家族療法の臨床,研究を牽引していこうとする姿勢が表れている。また,全編にわたって家族療法に関連する14のコラムが挿入されている。
 このように本書の骨組みを見るだけで,家族療法が「広範な臨床領域と多様な理論的背景を持つ一群の臨床的アプローチ」であり,「その全体像を理解するのは容易ではないかもしれない」というほど重層的な広がりをもつ臨床実践であることがわかり,本書の内容に触れることで,家族療法が,決して家族を観察者として眺め,操作的に動かそうとするものではなく,家族と共に歩む発展のなかにあることが理解されるであろう。また,評者個人としては,児童福祉領域における取り組みを充実させることが課題であることも再認識することができた。このような教科書が編集されたことに敬意と共に感謝を表したい。