『家族療法テキストブック』

日本家族研究・家族療法学会編
B5判/368p/定価(5,600円+税)/2013年6月刊

評者 西園昌久(心理社会的精神医学研究所)


 精神療法関係書には類を見ない大版のしかも350頁を超える大作である。編集後記には,本書出版の主旨が述べられている。すなわち,この学会創立30周年を記念し,わが国の家族療法家によって書かれた家族療法の教科書であり,内容としては,家族療法の全体像,家族療法の歴史,個別の理論モデルや臨床テーマの概略の理解を導くものという。さらに,次のような編集内容が説明されている。第1部の理論編では,家族療法の歴史を欧米とわが国,それぞれについて記述,さらに家族療法の基礎概念,理論モデルが明らかにされ,家族療法の何たるかが解説されている。第2部の臨床編では,現在のわが国でなされている家族療法を臨床領域別および臨床テーマ別に設定し,家族療法が幅広く実践できることを明らかにしているという。具体的には,精神科医療保健領域,一般身体科領域(プライマリ・ケア,心療内科,緩和ケア,リエゾン精神医学),教育領域,児童福祉領域,そして,現代的な臨床テーマとして,児童・思春期,青年期,成人期,老年期,社会と家族が論じられている。第3部には教育,研究,倫理が取りあげられ,家族療法の持つ社会的側面ならびに責任を明らかにしたと記載されている。そして,本書は,教科書としての位置づけであるが「テキストブック」とカタカナで表記し格式ばらない含みを持たせたとも記載されている。評者にとっては精神障害の原因を家族のあり方に求めた家族研究から,家族機能の回復を求めた家族療法の創始への転換の記載が印象ぶかかった。
 評者もかつて,この種のテキストを編集したことがあるが,その時の経験から本の出版の企画から完成までのご苦労がよくわかる。本書には,記載されている執筆者一覧によると実行委員を含めると64名の家族療法指導者あるいは専門家の協力があったという。その数多い専門家の息込みで本書は出版されたのであろうが,それだけ今日のわが国では,臨床や教育などの分野で家族のあり方の理解と家族への働きかけ,あるいは家族療法が必要なことを示しているのであろう。本書にはせまい精神医学領域を超えての家族療法が具体的に網羅されている。それだけ,現代は家族の危機の時代なのであろう。
 評者の本書に対する若干の意見を述べるとすれば,家族のあり方についての時代的変遷,現代的特徴についての記載があれば,それぞれの家族療法を行う理由も一層意味ぶかいものになるであろう。家族の目的と機能を考えると,(1)「職業,財産,先祖の供養などの継承」,(2)経済生活の保障,(3)性生活,(4)子育て,(5)心のやすらぎ,(6)愛情などであろう。現代社会では(1)は多くは消失の傾向にあり,(2)も不安定。(3)も性倫理の変化がいわれ,(4)も,少子化で一人っ子が増加している。さらに,離婚の増加である。つまり,現代は家族は不安定で,ことに夫婦の間の実存的愛が問われているといえるであろう。それはともかく,本書,日本家族研究・家族療法学会あげての「家族療法」のテキストであり辞書である。ことに,諸外国の学者の学説の紹介,引用にとどまらず,わが国のこの領域の先覚者や現在の治療者の研究が数多く紹介,解説されていることは「家族」という文化条件に規定されることの多い対象を考えるとき,生きた内容記載といえよう。