『臨床 作業療法−作業を療法としてもちいるコツ』

山根 寛著
四六判/240p/定価(2,800円+税)/2013年7月刊

評者 谷井一夫(東京慈恵会医科大学附属 第三病院)


 本書は長年作業療法の臨床,教育,臨床研究に携わってきた著者が基本から臨床まで作業療法のコツをわかりやすく解説している。本書は,序にかえて,第1章「身体そして作業」,第2章「作業をもちいる療法の基本」,第3章「作業をつかう」,第4章「作業療法の臨床」,第5章「作業療法臨床のコツ」で構成されている。
 本書を読み進めていくと,精神疾患による障害は病気の結果として生じる後遺障害ではなく,病気と障害が共存しており,病気の治療と障害のリハビリテーションが並行して行われているという点や,作業療法が対象者の回復状態に応じて行われる点など,日常の臨床の中で意識していなかったことに改めて気付かされることも多い。また,著者も述べているように,身体障害と異なり,精神障害では,治療やリハビリテーションの目的が病気になる前の状態に戻るのではなく,生き方や環境を変えていく必要がある。このことを踏まえ
て第4章では疾患別に「何が体験されるのか」からはじまり,「一般的治療」や「作業療法の実際」が語られており,非常に読みやすい。
 著者によれば,作業療法は対象者が「治療のための作業」と捉えるよりも「日常生活の延長」と捉えて行っていく方が高い効果をもたらすという。そのためにはどうしたらよいのか,という事が本書で丁寧に説明されている。特にそのことが窺える第5章を紹介したい。ここでは,著者は作業療法の原則を示した後に作業療法臨床のコツを紹介している。まず一つに「主体性は奪わないもの」である。主体性は作業療法だけに限らずすべての治療に大切である。その主体性を「育てる」のではなく「奪わない」という視点にハッとさせられた。臨床の中で,往々にして治療者主体の「治す」というかかわりが彼らの主体性を奪ってしまうことはなかったかと,非常に考えさせられた点である。そして最も印象に残る著者の言葉が「正すより,添ってみる」と「身をもって知る,わかる」である。例えば,器質的な障害がないのに,手が動かないという身体表現性障害の人に「本当は動くはずだ」と伝えても意味がない。このように事実を告げて正そうとしてもうまくいかない時,著者は生じるリスクの予測と対処を想定しながら,「その人が望む方向に寄り添い,待つ」と述べている。また,自分が体験し,納得することが必要で,そのために「作業を生かす言葉,言葉を生かす作業」としてのかかわりが必須と述べている。私自身が臨床の現場で実感することは,説得に努めるだけで治療が進展していくことは少ないということである。やはり治療・援助していく中で大切なことは主体性を奪わず,寄り添っていくということになるのだろう。本書は作業療法に携わる方だけでなく,対象者の日常に関わる家族や援助者の方々にもお薦めしたい一冊である。