『バウムテストの読み方−象徴から記号へ』

阿部惠一郎著
B5判/200p/定価(3,200円+税)/2013年8月刊

評者 小川俊樹(放送大学)


 2001年7月25日から4日間,スイスはベルン近郊のシュピーツで国際ロールシャハ学会主催の第1回サマーセミナーが開かれた。招かれてその集まりに参加した折,日本では心理アセスメントとしてバウムテストが広く採用されていることを話した。参加者は,米国,そして英国やドイツを除くヨーロッパの国々(主に,フランスやイタリア,スペインなどラテン語圏)からであったが,米国からの参加者はバウムテストをほとんど知らなかった。もちろん,バウムテストという名称そのものが独語であるので,木(tree)の描画法と英語で表現しても,木そのものを描くテストは知られていなかった。Bolander K(1977)の名著があるにしても,多くの米国人はH-T-Pの一部としての樹木の描画しか思い当たらないようであった。事実,心理アセスメントの代表的なハンドブックであるHersen M のHandbook of Psychological Assessment(2008)にも,描画法として解説されているのはH-T-PやD-A-P(人物画)である。米国では樹木よりも,直截的に人物を描いてもらうようである。対照的に,フランスにおける投影法の標準的なテキストであるAnzieu D のLes methodes projectives(1995)には描画法としてバウムテスト(test du dessin de l’arbre)が詳細に紹介されている。ここに個人的な体験を記したのは,実はヨーロッパ,とりわけフランスでは多くの研究がなされてきているのであり,事実著者によりStora R(2011)やCastilla D(2002)などの著作は翻訳されている。その意味では本書は,題名はバウムテストとなってはいるが,フランスの精神医学や臨床心理学に精通した著者による樹木描画法のエンサイクロペディアといってよく,江湖に勧めたい。実際7章には,各描画特徴の研究者による解釈仮説がサイン一覧としてまとめられている。そしてヨーロッパ圏の描画法ということを考慮すれば,2章Vに描線として取り上げている筆跡学的知見は当然の流れであり,著者も指摘しているように従来のバウムテストの解説本にはあまり見当たらない,解釈に豊かな視点を提供してくれるサインである。また,本書では数多くの描画が掲載されているが,その解釈にあたっては,「統計から抽出された意味は〔統計〕,臨床的観察から判断された意味は〔臨床〕と付しての解釈で」,精神分析や分析心理学などの特定の学派に拠らない描画解釈である。
 今回本書を読んで,筆者の専門とするロールシャッハ法での体験とも共通する点が多いようにも思われた。たとえば,用紙の置き方で横長方向に使用した描画はストラのCDEの意味であるとする著者の解釈は,図版を手渡すとすぐに逆位置にて反応することの解釈にも通じるものであるし,5章の2枚法の考えは反応することに抵抗の強い非行少年に対して意図的にロールシャッハ法を2回実施する施行法にも当てはまるものである。なお,本書は主として心理テストとして解説されているが,芸術療法に造詣が深い著者には6章U「芸術療法としてのバウムテスト」にもっと紙数を多く割いて欲しかったが,次の版への要望としたい。