はじめに

埜崎健治

 ここで書かれていることは、当事者やその家族から教えてもらったこと、そして当事者やその家族自身が語ったことである。筆者の経験上、ある程度の意味があったと感じていることであり、エビデンス(科学的な根拠)に基づいたものではない。
 だからここに書かれていることだけがベストな方法ではないし唯一の方法でもない。そしてあくまでも一般論であり個々の状況に応じて修正・調整が必要である。だからこの本の方法と違うからといって、それだけで今行なっていることが意味がないとか無駄ということではない。
 第1章で説明するように、うつ病の診断基準が混乱しているなか、筆者が出会った当事者や家族に共通しているのは病名ではなく、「なかなか良くならない、少しでも楽になりたい」「仕事をしたいけど、うつが良くならないから働けない」という実感である。よって本書ではなかなか良くならないうつをターゲットにして話を進めたい。この点については第2章で触れることになる。
 うつ病に関してはたくさんの情報や方法があふれかえっているが、何が合うのか?どれが有効か?と悩むこともあると思う。そのときには次の三つの基本的姿勢に当てはめて考えてもらえるといい。

▼ルール1―もしうまくいっていることがあればそのまま続けよう!

本書に書かれていることと今実践していることが異なっていても、それで回復の方向に向かっている場合には、是非そのまま継続してほしい。ただうつを抱えていると、うまくいっていることやできていることがあるのに気がつけないことが多い。本書では、うまくいっていることやできていることに気がつく方法についても触れているので参考にしてもらいたい。

▼ルール2―もしうまくいっていないのであれば(なんでもいいから)違うことをやってみよう!

今実践していることがうまくいっていないのであれば、本書を参考にして新たな実践を試してほしい。ただ、違うこと(新しいこと)を行なうことはとても勇気がいることであるし不安が伴うことでもある。最初からすべて実践しようとするのではなく、できそうなこと(小さいこと)からスタートしてほしい。

▼ルール3―もし一度やってうまくいっているのであればもう一度やってみよう!

本書を参考に実践してうまくいったなら、是非それを続けてほしい。継続は力なりである。反対にうまくいかないことはどんどんやめて違うことに変えてほしい。この三つのルールはソリューション・フォーカスト・アプローチ(問題解決技法)の基本的姿勢であり、筆者もこの考え方を基本に実践をしてきた。本書のなかでもこの考え方に触れながら、第3章「うつとリハビリテーション」、第4章「うつのリハビリテーションの過程」、第5.7章「うつのリハビリテーションの実際1.3」と、具体的な実践例を物語形式で解説していく。

 最後にもう一言。有効だといわれる治療方法には副作用があると考えて間違いないだろう。例えばSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)、カウンセリング(認知行動療法)など有効だといわれる治療方法にも副作用はある。このような副作用やうつに対処するためのポイントについては、詳しくはコラムを読んでもらいたい。
 では何から始めればいいのか、わからなくなってしまうことがあるかもしれない。その場合には無責任のようだが自分が始められそうなことから選べばいい。自分に合いそうだと思える方法を自分で選ぶことである。その後は三つの基本的姿勢に基づいて、自分なりにアレンジして変更していってもらえればうれしい。