まえがき

実は,子どもと接するのが怖いんです

 ひきこもりが長期化すると,家族はこのような心境に追い込まれていきます。
 ひきこもりが長期化する背景には,お子さんにどのように接したらいいのかが分からない家族の苦悩が存在しているのです。
 ひきこもりのお子さんの家族は,必ずしも問題のある家族ではありません。むしろ,常識的であるからこそ,ひきこもりのお子さんに柔軟な対応ができないのです。ひきこもりからの回復は,常識との上手な付き合い方を身につけるプロセスでもあります。常識に囚われても動けなくなるし,常識を放棄しても回復への動機づけは高まらないのです。

働いたら負けだ

 ひきこもりから抜け出せない若者の中には,このような考えを持っている人がいます。このような考えをどのように理解するか。常識的な人であればあるほど,このような考えを理解することは困難でしょう。
 若者がこのような考えを抱く背景には,容易には就職できない,働けても過酷な環境で辛い日々に耐えられないといった,今日の若者がおかれる現実があります。このような考えを抱く若者は,自身あらゆる努力が報われない,今日の社会に対して心を閉ざしてしまっているのです。
 子どもと接するのが怖いという家族も,働いたら負けだと考えている若者も,努力が報わない現実に絶望しているという点では同じなのです。
 努力が報われかなった時,人は無気力になり,問題に向き合う動機づけが高まりません。このような状況において必要なことは,方法を間違わなければ現状は打開できるという希望を抱くことです。

家族が来ても話を聴いてあげることしかできないんです

 ひきこもりの家族支援の経験が少ない支援者の中には,このように感じている人が少なくありません。話を聴いてあげることしかできないという行き詰まりを感じているのです。
 このように感じている支援者に必要なのは,効果的な支援方法を,体系的,具体的に学ぶことです。このプログラムでは,現状の理解を深め,その上で,現状を打開するための具体的方法について実践を通じて学んでいきます。
 このプログラムの特徴は,概念的ではなく,具体的に学んでいく点です。筆者は概念的な支援を?キャッチフレーズ支援? と呼んでいますが,このプログラムは?キャッチフレーズ支援? とは一線を画しています。
 このプログラムの元となっているCRAFT プログラムは,依存症者の家族のためのプログラムです。ひきこもりと依存症は関係ないと思われるかもしれませんが,家族が最初に支援に来ることや,当事者と家族の間に共依存が存在することなど,共通点が多くあります。こうしたことから,CRAFT プログラムは,ひきこもりの家族支援としての応用が期待されており,厚生労働省が作成したひきこもりの評価・支援のガイドライン(斎藤,2010)においてもCRAFTプログラムが取り上げられています。
 本書を通して,絶望の淵にある家族が若者と社会をつなげる方法を体系的,具体的に学び,希望を見出せるようになることを切に願っています。
 本書の出版に際しては,金剛出版の立石正信社長に多大なるご尽力を頂いきました。立石社長には,CRAFT の訳本の出版から担当をしていただいている。これまでのお力添えに,ここに記して感謝申し上げたい。

平成25年7月12日
著者を代表して 境 泉洋/p>