『認知行動療法・薬物療法併用ガイドブック−エビデンスベイスト・アプローチ』

ドナ・M・スダック著/貝谷久宣監訳
A5判/270p/定価(3,800円+税)/2013年9月刊

評者 黒木俊秀(九州大学大学院人間環境学研究院)


 1950年代に向精神薬が登場した当時から,心理療法と薬物療法の統合/併用は,夢をはらんだ大きな挑戦であった。わが国でも西園によるアナクリティック・ファーマコサイコセラピーの試みがあった。現在も精神科治療ガイドラインの多くは,難治症例に対する両者の併用を推奨している。ところが,実際には両者の併用がいずれか単独による治療よりも有効であることを示した研究は驚くほど少ない。これにはさまざまな理由がある。1つには,1990年代以降,欧米では心理療法を実施するセラピストと薬物を処方する医師との分業化が進み,それぞれの効果の評価がもっぱら「心理療法対薬物療法」という2項対立の図式で行われるようになったことが挙げられる。その結果,認知行動療法(CBT)が薬物療法に比肩する効果を挙げうるという知見が蓄積されてくると,併用療法が単独療法よりも有効性が高いことを実証することはますます難しくなった。比較の方法論的問題もあるし,そもそも薬物療法と心理療法の作用機序の相違が明らかになっていない。しかしながら,最近のメタ解析研究が示すように,薬物療法にせよ,心理療法にせよ,その効果の限界がいずれも明らかになりつつある現状を考えると,改めて原点に戻って両者の併用を検討することは意義のあることと思われる。
 本書は,以上のような評者の関心に見事に応えてくれる一冊である。著者のスダック博士は,精神科医であるとともに,CBTの優れた指導者として活躍している人物であり,薬物療法と心理療法の双方を俯瞰できる立場にある。しかし,本書は単なる併用療法に関するエビデンス・レビューではない。あくまで実地臨床の視点が貫かれており,サイコセラピストと処方医が共同して治療に取り組むことが,双方の治療効果を相互に高めることの意義を強調している点が好ましい。それゆえ,前半部分では「責任共有治療」モデルと薬物療法のアドヒアランスを向上させるためのCBT介入を提示する。後半では,大うつ病,双極性障害,不安障害など,代表的な精神疾患の治療における併用療法について,その課題と対策を考察する。妊娠・出産・授乳期の問題や物質依存の治療まで取り上げている。限られたエビデンスだというが,相当なボリュームがある。しかも,随所に薬物処方をめぐる患者と医師,あるいはセラピストとの対話例が織り込まれ,著者の主張や提案に確かな説得力をもたらしている。著者はアーロン・ベックの直系であり,本書ではベックの考案した心理療法をCBTとしている。そのせいであろう。著者のアプローチには力動的心理療法の背景を強く感じた。
 本書をわが国の精神科臨床にたずさわる医師や心理士,看護師に広く推奨したい。それは「薬物か?心理療法か?」というモノ同士の対立図式を脱し,ヒトとして私たちが共同して治療に取り組むことの意義を再認識するためである。それゆえ,「わが国の精神科研修では心理療法を学ぶことができない」と嘆いている若い後輩たちにも本書を勧めたいと思う。惜しむらくは,本書が扱う臨床の現場が米国内に限られていることだ。それゆえ,わが国の治療環境や構造に直に取り入れるには難しい箇所がある。是非,訳者らにわが国独自の併用療法ガイドブックを開発して欲しいと切に願う。

原書 Sudak DM : Combining CBT and Medication : An Evidence-Based Approach.