『子どもから大人への発達精神医学―自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践』

本田秀夫著
A5判/190p/定価(3,200円+税)/2013年10月刊

評者 温泉美雪(神奈川学習障害教育研究協会)

 本書は長きにわたり横浜で先駆的な発達支援を,また現在は山梨においてより包括的なコミュニティ・ケアシステムを構築されてこられた本田先生の臨床と研究がまとめられた貴重な一冊です。本質的でタイムリーな支援とは何かという問いを巡って,地域によって異なる支援のあり方から見えてきた現状と課題が示されています。
 本田先生は,私をはじめ横浜の療育スタッフにとって憧れの存在でいらっしゃいました。というのは,時期を同じくして私も横浜で療育に携わっており,療育研究大会などで先生のご発表をお聞きする機会に恵まれたからです。事例検討で実践をお聞きすると,先生が多職種をまとめチームとしてケースに関わられておられること,また学校などとの連携も大切にされていらっしゃることがわかり,大変勉強になりました。
 本書では,臨床のなかで支援者が日々苦戦していることの背景がデータや事例を通じ理論的に解説され,実践的な解決の道標が与えられています。昨今,療育や特別支援教育は目覚ましい進歩を遂げていますが,支援者は次のような課題に直面することがあります。(1)異なる発達障害や精神疾患などの診断が同一の個人になされ混乱を招いていること。(2)診断されることにより,先が見通せない親の不安が子育てにネガティヴな影響を与えたり,家庭でなされるべき躾が全面的に専門家に託されることにより,親子関係の構築が阻まれる場合があること。(3)効果的な治療パッケージが形骸的なものとして親のみならず時に支援者にも扱われ,本質的な支援を阻む場合があること。(4)校内資源の実情が支援の必要性を実感している親の期待に適わず,親と学校の連携が進まない場合があること。(5)乳幼児期からの発達支援がシステマティックに展開している地域においても,青年期成人期の支援が充分行き届いているとは言えないこと。(6)支援システムの完成度が高まることにより,そのルートに乗り切れない親子の支援が滞ってしまう場合があること。(7)成人の精神疾患患者のなかに発達障害特性をもつケースが多数存在するが,課題が複雑化し支援が難航しがちであること。
 こうした課題が何故生じるのかについて,またその対策について,本書では分かりやすく紹介されています。すなわち,社会の変化やさまざまなライフステージで求められる発達課題の変化にともない明らかにされる発達特性があり,診断もまた変化すること,僅かな発達特性も見逃さず支援していくことで,いじめやひきこもりなどの社会的課題の予防につながることが強調されています。また,医療主導型ではなく,教育や福祉や職場などで発達特性を理解し継続的に支援していく,地域での包括的な支援の重要性が述べられています。一人の支援者が担う役割とは何かを,地域の支援システムを鑑み振り返るとともに,地域連携を押し進めていくために何度も読み返したい,読み返すたびに得るところのある名著です。