『子どもから大人への発達精神医学―自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害の基礎と実践』

本田秀夫著
A5判/190p/定価(3,200円+税)/2013年10月刊

評者 松浦隆信(鹿児島大学大学院)

 本書は,横浜市総合リハビリテーションセンターを中心に約25年にわたり発達障害の臨床実践に従事されている本田秀夫医師(以下,筆者と略記させていただく)が,「発達精神医学(本書では自閉症スペクトラム・ADHD・知的障害が取り上げられている)」に関する基礎と実践のポイントについて論じた書籍である。以下,本書を拝読しての所感について,森田療法をベースに発達障害領域への応用も含めて臨床実践に取り組んでいる臨床心理士の立場から述べたい。
 まず,本書では筆者のメッセージとして,あらゆるクライエントが呈する精神障害の背景に「発達」の視点を組み込んだアセスメントを行うことの重要性が一貫して主張されている。実際,成人期に職場で不適応を来し抑うつや不安を呈したケースなどで丹念に本人の生活史を尋ねていくと,幼児期などの比較的早い段階で発達障害や知的障害由来の困難が見られていたにもかかわらず,それらが見過ごされ今日に至っている場合が少なくない。この点において,本書はクライエントを年代で区切らない縦断的な対応の必要性を「発達精神医学」という新たな概念によってわが国の精神科臨床に広めるきっかけを提供している。
 次に,「第T部:発達精神医学の基礎」「第U部:発達障害の臨床研究」「第V部:治療・支援」の3部構成からなる本書の各部を拝読しての所感を述べたい。
 第T部は,専門家が臨床場面で当事者や家族に接する際の情報収集や対応の指針に関して,筆者の豊富な臨床経験に基づき詳細かつ簡潔に論じられている。発達障害関連の書籍では,クライエントの障害特性に応じた生活場面での対応策に触れたものは多いが,クライエントに対して各現場の専門家に求められる臨床スキルが論じられた書籍は意外に見当たらない。その点,本書には子どもの行動観察時の着眼点,親や学校教員など第三者から聞き取るべき情報,統合失調症やパーソナリティ障害との鑑別のポイントなど,「臨床の勘所」が幅広く記載されている。第T部の各論は,発達臨床に関与しているあらゆる職種の専門家が現場において「実践の手引き」として活用できそうだ。
 第U部は,特に医師が診断を行う際に有用ではないかと思われる,発達障害診断基準の歴史的変遷(最新のDSM-5 に関する説明も含む)や発達段階による症状の遷移などが詳細に論じられており,発達障害概念の整理に役立つ。また,第U部の各論を読み込むと,個々人により症状の発現時期や強度などの現れ方がいかに多様であるかを再認識させられる。筆者の論からは,「定型発達の促進」という介入が発達障害当事者の個性および社会適応性をかえって奪うことに繋がる弊害と,「非定形発達」という彼らが有する発達障害由来の特徴を保証した上での支援の重要性が学び取れる。
 第V部は,発達障害の治療・支援について,筆者による横浜市や山梨県での実践例に基づき,学校・保育所なども含めた地域が一体となって取り組む必要性が強調されている。また,筆者は第V部において当事者の特徴が活かされるような環境調整による支援を主張しているが,この論に関しては,森田療法で言う所の「あるがまま」の思想と相通ずる面があるようにも感じられ,個人的には発達障害に由来する特徴も含めた当事者本来の姿を社会で受け入れていく器作りの意義を確認できた思いがした。一方で,筆者は特定の心理療法(筆者は「何とか療法」と表現している)の適用以前に求められる,「問題の見きわめ」「理解・共感」「チームアプローチ」「親支援」「コミュニティケア」などの支援の要点を押さえておく必要についても詳細に説いており,発達障害支援においては特定の臨床理論にとらわれない対応を求められることが筆者の個性ある表現で的確に指摘されている。第V部は,発達障害の支援において従来型の個人臨床の枠にはまらない地域における多層的な介入システムを,各自が関係する臨床現場でいかに作り上げていくかについて,筆者が行ってきた実践に基づくモデルケースを通じて検討を深められる内容となっている。
 本書の各論は,筆者の豊富な臨床経験に裏打ちされた「現場からのメッセージ」として,各現場で対応に苦心している臨床家に対する心強いサポートとなるだろう。また,本書を通じて「発達精神医学」の考え方,すなわち「発達障害に対する臨床」という狭義の理解にとどまらない,あらゆる年代のクライエントに対するアセスメントにおいて「発達」を軸に捉える視点を持った臨床家が増えることが期待される。