はしがき

 本書は子ども,とりわけ非行少年に関する法・制度の概要をわかりやすく解説した入門書である。
 今日,子ども(児童,少年)の問題への関心は非常に高まりをみせているが,その多くは,児童虐待や重大・凶悪な非行などであり,現在の法や制度への批判・不満の声も強い。他方,専門家の間からは,そのような世論の無理解さや誤解を嘆く声も少なくない。私には,いずれにもそれぞれ理由があると思われるが,その隔たりの大きさが残念でならない。社会の明日を担う子どもたちを守り,育て,正しく導いていくことが国民共通の関心事,国家的課題であり,その解決が喫緊の問題となっている。そのためにはなによりも国民各層の理解を得てその力を結集することが必要不可欠だからである。私は30年間の裁判官生活で終始担当した刑事事件,十数年携わった少年審判などで多くの犯罪被害,中には本当に悲惨な被害,被害者の方々と接するとともに,非行少年たちとも間近に向き合い,家庭裁判所調査官などと仕事をしてきた。また,平成12年の少年法改正では,英米独仏の少年法制の現地調査,改正の提案なども行ってきた。そのような中で,我が国の少年法制は非常に優れたものであるけれども限界もあり改革の必要があることを痛感したが,その議論が専門家の間でさえ噛み合わず,それが問題解決を遅らせ,事態をより深刻化させるという状況を目の当たりにしてきた。また,非行や福祉関係の臨床実務家の中にも少年法など関係法制度の理解が十分ではない方が少なくないことも痛感させられた。その原因は,我が国の法制度が複雑に入り組み,複数の組織が関わっているうえ,これを解説するべき研究者にも相当な対立があるなどの悪条件による。まず,相互に理解を深め,少しでもその溝を埋めようと『注釈少年法』を田宮裕先生(立教大学名誉教授)と編み,それなりに読まれている。しかし法律専門書としての限界がある。家庭裁判所調査官などの臨床実務家をはじめ,より広く一般読者に役立つものを作らなければ……,そんな思いに駆られていた矢先,村瀬嘉代子先生(大正大学教授)のお薦めで『臨床心理学』誌にその趣旨の連載の機会を与えられた。それを,私が母校(立教大学)の法科大学院に転じたのを契機にまとめ,若干加筆したものが本書である。まとめるに際し,村瀬先生との対談も収録させていただき本書の視座等を明確にすることができた。この対談からお読みいただくのも分かりやすいかと思う。また,目次を詳しくして検索を容易にし,巻末に関係法令の抜粋等の資料を付して読者の便宜を図った。このように本書は,少年非行に直接関わる家庭裁判所,法務省,警察,児童福祉関係等の実務家はもちろん,学校教育,社会福祉等の関係者,さらには法律に馴染みのない一般の読者にも役立つものとなることを目指している。本書が少しでも多くの方々に読まれ,子どもに関する法制,少年非行・少年審判の実状などの理解に役立ち,それが非行等の問題改善の一助となればと心から念じている。
……(後略)……

2005年6月 豪雨の晴れ間の日 廣瀬健二