『ストレスマネジメントと臨床心理学―心的構えと体験に基づくアプローチ』

山中 寛著
B5判/368p/定価(3,600円+税)/2013年10月刊

評者 鈴木 壯(岐阜大学)


 本書は,著者がガン治療を受けた後に,「“生かされて,生きている”間に,遣り残したことを成し遂げたいという思いが,ふつふつとわいてきて,その思いが結実した」博士論文がもとになっている。評者はそこまでの体験があるわけでもなく,またストレスマネジメントを専門とするわけでもないが,興味を引かれるところがいくつもあった。拠って立つ理論は異なっていても,臨床心理学とスポーツ心理学の両方に関わって臨床活動を行っているという点では共通しているところがあるからかもしれない。
 本書は,「ストレスマネジメントと臨床心理学」に関して,現状と課題,スポーツ選手に適用した臨床実践研究,基礎研究,学校教育への適用と効果研究,総合考察について7章から成っている。
 そのうちの2つについて評者の感じたことを述べてみたい。まず,スポーツ選手の関わる臨床実践研究について。スポーツ選手の心理的問題の理解と援助方法について事例をいくつか紹介されている。スポーツ選手は勝敗やタイムを気にし過ぎて,外界・他者志向的構えを取り,動作を無視した状態になり,適切なフォームで走れなかったり,あがったりして実力が発揮できない状態になることがある。スポーツ心理学の専門家がその支援をするときに,選手の話を十分に聞かずに心理スキルトレーニングと称して単に技法を適用するだけに終始するときがある。一方,著者は実力が発揮できない選手に対して,自分自身の心的構えを内界・自己志向的構えに向けさせるために,選手自身のからだに注目させる。その方法として自律訓練法,動作法,イメージ技法が用いられている。選手が語ることを彼らの体験に沿って傾聴しながらこれらの方法を用いるこによって,心構えは,「体験拒否・拘束・無視」→「体験観察」→「体験直面」→「体験」→「体験受容」→「体験改善」→「体験活用」というプロセスを辿って変容し,その結果として記録が向上し,実力が発揮されることが示されている。本書のような基礎研究や理論を踏まえた実践例をスポーツ心理学領域での心理サポート担当者にはぜひ読んでほしい。また,このような心的構えや体験の変容はどの領域の心理支援においても念頭に置くべきことである。
 2つ目は学校におけるストレスマネジメントについての留意点について。ストレスマネジメント教育の体験について,指導者自身が体験する,日常の教育活動の延長として実施する,担任が担当する,その時間を作る,教材であると考える,心構えを配慮した導入を工夫する,内容を工夫する,強制しないなど,評者はスクールカウンセラーとして仕事をすることもあるので参考にしたいと思う。スクールカウンセラーとして学校現場で関わる方達にも参考にしてほしい。
 以上のように,本書が基礎研究や理論を押さえた上で,実践体験を踏まえて論じられていることに著者の誠実さが伝わってくる。他のテーマも含めて実際に本書を読んでいただきたいものである。