『エモーション・フォーカスト・セラピー入門』

レスリー・S・グリーンバーグ著/岩壁 茂,伊藤正哉,細越寛樹監訳
A5判/212p/定価(3,400円+税)/2013年10月刊

評者 園田雅代(創価大学大学院)

 本書の特長は,監訳者まえがきにおいて,「もっとも手軽で読みやすいエモーション・フォーカスト・セラピー(EFT)の入門書」と端的に記されている。EFTでは,感情をただ体験することだけを目指すのでなく,「その感情体験がどのように自己を作り出し,そして自己感によって感情体験が作りだされるのかという循環的なプロセスを重視」(同じく「監訳者まえがき」より)しており,「感情は人間機能の中心にあるが,(感情のみを他と切り離して重視するのではなく……筆者付記)認知,行動,語りも重要な一部」(同上)と見なしていること,そして,EFTが,「近年発展した認知科学や情動神経科学の知見を通して,ヒューマニスティック・アプローチの自己実現そして自己概念という考え方を見直し,それらの裏づけを与え,修正も加えている」(同上)こと,こういったことが本書を通じて明快に理解できる内容となっている。
 私は,本書の著者たちによる「感情に働きかける面接技法;心理療法の統合的アプローチ」(岩壁 茂訳 誠信書房2006年原題:“Facilitating Emotional Change ; The Moment-by-Moment Process”1993)をかつて読んだとき,最初の「理論的背景」が今ひとつよくわからないところがあったのだが,今回,本書を読み,そのうえで再チャレンジしてみると,随分と前よりも理解を進められた。それだけ本書は文字通りの良質な「入門書」であり,著者のここ最近の理論や実践の進展をも如実に反映しているからだと思う。本書がアメリカ心理学会刊行というお墨付きであるのも,「なるほど」との意を強くいだく。
 訳文は一貫して読みやすく,非常にこなれている。監訳者が「難解でありながら,EFTの基礎となるメタ心理学とも言うべき内容が論じられている」(監訳者まえがきより)と指摘し,親切にも「この章を飛ばして第4章を読んで,……(中略)……戻って読むことでも問題はない」(同上)とした章も,訳文の明快さに助けられ,決して読みづらくない。むしろ,知的好奇心を大いに賦活される深さと骨太さが兼備されている。原著の刊行が2011年であることを考えると,小ぶりな本とはいえ,短期間にこういった良書を読みやすい見事な訳文
で世に出してくれた訳者たちに,敬意と感謝を捧げたい。末尾の用語・簡潔な解説集も非常に有益で,ありがたい。また他のお二方の「監訳者あとがき」も各々個性的で人間的であり,本書やEFTへの興味関心を大いに喚起してくれる。
 カバーには二つの空の椅子の写真が大きく配され,また補色である緑と赤のツートンカラーが印象的だ。「空の椅子の対話」「二つの椅子の対話」はEFTの特徴的な技法であるし,緑と赤の二色は,「感情が自己を破壊するものにも自己を構成するものにもなりうる」( 本書袖より)こと,そしてEFTは,クライエントがセラピストとの協働作業を通じて,自分の感情を自己の構成に使えるものに変容していく過程を重視することの象徴のような気がした。心理療法のオリエンテーションがヒューマニスティック・アプローチの人は無論のこと,認知行動療法や精神分析など,多くの流派の方に,本書の一読を強くお勧めしたい。

原書 Greenberg LS : Emotion-Focused Therapy.