『不安に悩まないためのワークブック―認知行動療法による解決法』

デビッド・A・クラーク,アーロン・T・ベック著/坂野雄二監訳/笹川智子・石川信一・金井嘉宏・岡島 義訳
B5判/300p/定価(3,600円+税)/2013年12月刊

評者 岡嶋美代(医療法人和楽会なごやメンタルクリニック)

 不安障害患者に対して認知行動療法の宿題を出す時にセラピストが使えそうな本である。後半(9〜11章)にはパニック障害,社交不安障害,全般性不安障害患者に対する個別の章立てがある。そこから読み始めても理解できるように,参照すべきページが的確に示されている。読者の理解を助けるために丁寧に構成されているようだ。ワークブックを巻頭から読み始めると目当ての章へいくまでに力尽きる可能性があるので,このような読ませる工夫/取り組みやすさの配慮はありがたい。PTSDや強迫性障害患者にはこの本は不向きであることをきちんと記していることも好印象である。一方で,「平常心カード」という,平常心であればこう考えるという代替案を持つことで不安な状況を乗り越えられるようにする方法が登場する。この本を使えば,認知修正スキルに気づくことができて平常心カードが書け
るようになって不安や心配に対するコントロール能力を持つことができるかもしれない。そんな人かどうかをアセスメントする力はこの本を手にした読者の能力に委ねられている。読者がセラピストであれば,どの患者に使えるかを診断名からだけではわかりえないだろう。とはいえ,使ってみてから考えようである。
 原著者は認知療法の大家であるが,「勇気を持って恐怖と向き合おう」(7 章)という行動療法のパートではバランスのよい記述がなされている。それは,「安全への依存を減らす」「不安に対処するための気づき方略(AWARE)」ということばで安全確保行動によるコントロールの間違いを指摘している。驚いたことに,この気づき方略と訳されたAWAREは1985年出版の不安障害の認知療法マニュアル(Beck
& Emery)の中で著されたものだという。Beckがそんな昔にACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の視点を書いていたことを知っていたら,私は「認知療法は使えない/不要なセラピーだ」とBeck を嫌うことはなかったかもしれない。
 私がこのように認知療法についてもA.Beckについても無知であるにも関わらずこの本の書評の依頼がきたのは大変不思議であった。しかし,「人生は体験の回避によって損をする」という認知を持つ私は受けてみることにした。そして改めてクラーク&ベックのこの本の良さに触れることとなり新たな気づきを得た。認知療法をよく知る読者からそんなことも知らなかったのかと驚かれたかもしれないが,
嫌悪して回避すれば人生はそんなものである。世の中は読むべき本があふれており,特に昨今は認知行動療法の業界は玉石混交である。用途をセラピーのための副読本として位置付けるなら,本書はお勧めの一冊になることは間違いない。その際,税抜3,600円もする本を患者さんに買っていただく方法がある。ワークシートをいくつかコピーしてセラピーで使ってみせ,効果を実感していただいて購入をすすめるとすれば,人生の長期的な展望からみた3,600円の費用対効果の分析(6章)のよい実例となりそうである。

原書 Clark DA, Beck AT : The Anxiety and Worry Workbook : The Cognitive Behavioral Solution