『風景構成法―「枠組」のなかの心象』

伊集院清一著
A5判/200p/定価(3,400円+税)/2013年11月刊

評者 徳田良仁(日本芸術療法学会名誉会長)


 本書は若き精神科医が自分自身を凝視し,治療者としての経験と研究者としての考察とを探究し自らの治療技法を確立していく過程で得られた知見の集成である。
 その中核に中井久夫の創案になる「風景構成法」という一つの「枠」がある。いまや多くの良心的治療者の関知するところとなったこの優れた治療法を学ぶことを,精神科医としての一つの基点・枠とし,そこから多くを発想し展開する臨床経験からの症例報告は,同じ道を志す臨床家にとって力ある導きの書である。
 その根底には,「精神世界と視覚文化」の序章で,著者自身の体験を語ることで,治療者としてのあり方と共感覚をあらためて自覚したこと,そこから治療法としての「風景構成法」の有意性をより深く体感されるに至ったことがあるように思われる。
 本書は,風景構成法の手法・機能,病理解釈と治療技法のさまざまな発展形までを詳細に示した臨床手引であり解説書である。
 症例報告にあっては,表現の特徴を分析した結果を症例群により詳細に数量化する精密な努力を試みることで,考察の視点の明確化を図っている。同時に提示されている心象のもつ表象機能への考察も,多くの文献的根拠に基づくものであり,深く納得させられる論理構成となっている。この点も,治療法として芸術療法・絵画療法,さらには表現病理学や病跡学といった隣接する領域への力ある説得となっており,著者の研究者としての厳密に検証しつつその有用性を説く姿勢を伺わせるものである。
 本書の構成は,第1章;風景構成法の意義・手法・第2章;風景構成法と表象機能・第3章;拡大風景構成法における天象・地象表現と精神的視野・第4章;拡大誘発線法における「埋没化」現象・第5章;構成的空間表象の病理/構成的描画法の治療的意義・第6 章;風景画の臨床表現病理・第7章;拡大風景構成法の展開・第8章;治療としての絵画療法・第9章;「枠組」のなかの心象となっている。
 本論は,風景構成法の実践・解説およびその背景のイメージ・表象機能の考察を,表現病理学的視座から治療(的)であるということを基本姿勢に据えて論じ,今後の更なる技法の深化への究明を求めるものである。
 著者の述懐は,本書の依頼を受けてから発刊に至るまでの19年の長きにわたる治療者としての歩みに裏付けられている点で滋味深く,「風景構成法」を取り扱う各種の著作の中でも出色の作品である。付記:中井久夫による「風景構成法」は,1969年(昭和44年),現在の日本芸術療法学会(当時「芸術療法研究会」)における研究の中から誕生し,多くの心ある治療者に影響を与え,今日に至る芸術療法の発展に多大な寄与をした。